第8話
文字数 1,436文字
……当然のごとく一方的にやられ、こずえ先輩からため息が漏れ聞こえる。これで僕の実力が知れたに違いない。
だが、彼女の反応は予想を覆した。
「……わたくしをからかっていらっしゃるのかしら? 手を抜かずに本気でプレイして頂戴と言ったわよね? わたくしごときでは相手にならないでしょうけど、どんな相手でも全力を出すのがマナーというものでございますわ」
言葉遣いは丁寧だが、その裏には明らかに敵意が込められている。
「別に手を抜いているわけじゃありません。これが本当の実力なんです。信じてください!」
だが、こずえ先輩は聞く耳を持たず、再度対戦が始まった。
……結果は言わずもがな。一勝どころか、ダメージすら与えることができなかった。
これには部長も堪忍袋の緒が切れたようで、
「からかわないでって言ったでしょ? どこまでプライドを傷つければ気が済むの? ゲーム部にあなたは必要ないわ。今すぐ退部しなさい。これは部長命令よ!」
一方的にまくしたてた挙句、部室の隅にあったキャビネットから書類を取り出すと、三橋院こずえは有無を言わさず僕の前に叩きつけた。
「これって……」
「見てわかるでしょう? つべこべ言わずに記入して頂戴!」
視線を落とすと、それは退部届であった。どうやら本気らしい。
まさか三日目にして退部とは、ほとほと運がないようだ。
いや、却って幸運なのかも。
これで苦手なゲームをしなくて済む。
笠原との接点が無くなるのは勿体ないが、ここは致し方ない。いきなりエアガンで撃たれるよりはよっぽどマシだ。
さらさらと書き終えると、こずえの鼻先に退部届を突き付けた。
「これで文句ないだろう? 言われなくてもこっちから辞めてやるよ。 大会だか何だか知らないが僕には関係ない。勝手にしてくれ!」
強気な態度を取るとは思わなかったのだろう。こずえ先輩は顔を蒼ざめながら、袖口を引っ張ってきた。
「……もう一度勝負しなさい。今度こそ本気でよ。それでもし本当にビギナーと判断したら、退部届はなかったことにするわ。いいわね?」
いいわねと言われたところで、僕の意見は変わらない。勝ち負けに関係なく退部してやる。
イキりがるこずえは椅子に座ろうとして、僕を右手で押しのけた。
……が、足がもつれたらしく、バランスを崩しながら、僕の腕をつかみ、一緒に転んでしまう。
「あいたたた……」
気が付くと僕は馬乗りになり、何かを両手で掴んでいた。
それは柔らかで豊満なバスト。もちろんこずえ先輩の。
慌てて手を離すが、彼女の表情は般若のそれになった。
「うぐっ…………!!」
これまで感じたとこがないほどの強烈な痛みがアソコに走る。膝蹴りをまともに喰らったようだ。
股間を押さえながら悶絶すると、こずえ先輩は大声で叫びながら部室を飛び出していった。
声も出せず、ひとりで粛々ともだえていると、やがて昨日の警備員が入ってきた……。
「またお前か。今度は何をやらかした?」
高田先生は腕を組みながら白目をさらす。
まるでデジャヴを見ているようだった。
脂汗を流しながら股間をおさえ、僕は一言も発することができないでいた……。
さすがに異変を感じたらしく、その夜は両親たちから問い詰められた。夕食時のことである。
このまましらを切り続けるわけにはいかなかったが、それでも本音を喋るわけにはいかず、「……ちょっとね。たまたま転んで……」と苦し紛れの弁解をした。
妹は軽蔑のまなざしを突き刺しながら、無言で箸を進めていた。
だが、彼女の反応は予想を覆した。
「……わたくしをからかっていらっしゃるのかしら? 手を抜かずに本気でプレイして頂戴と言ったわよね? わたくしごときでは相手にならないでしょうけど、どんな相手でも全力を出すのがマナーというものでございますわ」
言葉遣いは丁寧だが、その裏には明らかに敵意が込められている。
「別に手を抜いているわけじゃありません。これが本当の実力なんです。信じてください!」
だが、こずえ先輩は聞く耳を持たず、再度対戦が始まった。
……結果は言わずもがな。一勝どころか、ダメージすら与えることができなかった。
これには部長も堪忍袋の緒が切れたようで、
「からかわないでって言ったでしょ? どこまでプライドを傷つければ気が済むの? ゲーム部にあなたは必要ないわ。今すぐ退部しなさい。これは部長命令よ!」
一方的にまくしたてた挙句、部室の隅にあったキャビネットから書類を取り出すと、三橋院こずえは有無を言わさず僕の前に叩きつけた。
「これって……」
「見てわかるでしょう? つべこべ言わずに記入して頂戴!」
視線を落とすと、それは退部届であった。どうやら本気らしい。
まさか三日目にして退部とは、ほとほと運がないようだ。
いや、却って幸運なのかも。
これで苦手なゲームをしなくて済む。
笠原との接点が無くなるのは勿体ないが、ここは致し方ない。いきなりエアガンで撃たれるよりはよっぽどマシだ。
さらさらと書き終えると、こずえの鼻先に退部届を突き付けた。
「これで文句ないだろう? 言われなくてもこっちから辞めてやるよ。 大会だか何だか知らないが僕には関係ない。勝手にしてくれ!」
強気な態度を取るとは思わなかったのだろう。こずえ先輩は顔を蒼ざめながら、袖口を引っ張ってきた。
「……もう一度勝負しなさい。今度こそ本気でよ。それでもし本当にビギナーと判断したら、退部届はなかったことにするわ。いいわね?」
いいわねと言われたところで、僕の意見は変わらない。勝ち負けに関係なく退部してやる。
イキりがるこずえは椅子に座ろうとして、僕を右手で押しのけた。
……が、足がもつれたらしく、バランスを崩しながら、僕の腕をつかみ、一緒に転んでしまう。
「あいたたた……」
気が付くと僕は馬乗りになり、何かを両手で掴んでいた。
それは柔らかで豊満なバスト。もちろんこずえ先輩の。
慌てて手を離すが、彼女の表情は般若のそれになった。
「うぐっ…………!!」
これまで感じたとこがないほどの強烈な痛みがアソコに走る。膝蹴りをまともに喰らったようだ。
股間を押さえながら悶絶すると、こずえ先輩は大声で叫びながら部室を飛び出していった。
声も出せず、ひとりで粛々ともだえていると、やがて昨日の警備員が入ってきた……。
「またお前か。今度は何をやらかした?」
高田先生は腕を組みながら白目をさらす。
まるでデジャヴを見ているようだった。
脂汗を流しながら股間をおさえ、僕は一言も発することができないでいた……。
さすがに異変を感じたらしく、その夜は両親たちから問い詰められた。夕食時のことである。
このまましらを切り続けるわけにはいかなかったが、それでも本音を喋るわけにはいかず、「……ちょっとね。たまたま転んで……」と苦し紛れの弁解をした。
妹は軽蔑のまなざしを突き刺しながら、無言で箸を進めていた。