第26話
文字数 1,642文字
簡単に後片付けを済ますと、僕たちはゲームの間を後にした。
「次は食堂で夕食になります。全員、遅れないように」
先頭を歩く部長は、みんなを促しながら廊下を進んでいく。
すると前方から、男性の集団が現れた。
制服と思われるブレザーを着ているところを見ると、僕たちと同じ高校生のようだ。
先頭には長身ですっきりとした顔立ちのイケメン男子がいて、細い銀のフレームの眼鏡をかけている。背後には五人の男子を従えていて、皆ふてぶてしい態度で廊下を闊歩していた。この先はゲームの間しかないはずなので、次の利用者は彼らということになる。
「……まさかこんなところでお会いできるとは思いませんでしたよ。小村崎高校の皆さん」
イケメンはブリッジを中指で押し上げると、軽く首を回した。
こずえは軽く一礼すると、
「こちらこそ。名門の沼平西高校の方とご一緒できるなんて光栄ですわ」
口調は淡々としているが、言葉の端々に嫌悪感がみなぎっている。
「僕たちこそキミたちのような素敵な女性たちと一緒の宿だなんて、本当に運がいい。最もゲームよりもゴキブリの世話が大変そうだけどね」
もしかして、ゴキブリとは僕のこと? ここまで露骨にディスるやつも珍しい。
「あら、そちらこそ、実力もないのに、大会に出られるおつもり? 恥をかくだけですから、お辞めになったほうが得策ですわよ」
バチバチと今にも火花が飛び散りそうだ。
「キミたちこそ、女子の分際で僕たちに勝てるだなんて、まさか本気で思っているわけじゃないだろう? 悪いことは言わないから、お嬢様は大人しくお花でも摘んでいなさい」
まるで昭和の少女漫画のような価値観だ。大丈夫かコイツ?
「あら? わたくしたちを甘く見ないほうがよろしくてよ。殿方が姫に負ける姿なんて、晒したくはないですものね」
こずえらしくない歯に衣着せぬ物言いだ。もしかしたらこの二人、よほどの因縁がありそうなのだが、果たして……?
「失礼するよ。こちらも暇じゃないんでね。アディオス! 三橋院こずえ」
「ごきげんよう。寺塚龍平くん」
互いに目でけん制し合うと、沼塚西高校の連中はゲームの間のへと消えていった。
こずえは何事もなかったかのごとく、歩みを戻す。
他のメンバーも小声で悪態をつきながら後に続いた。
名前を知っているからには、やはり知り合いだったってことか。それにしてもただならない殺気が漂っていたな。もしかしたら昔付き合っていたりして――まさかな。
そんな僕の思いなど完全にスルーして、ゲーム部員たちは雑談を交わしながら食堂に入っていった。
テーブルにはすでに料理が並べてあり、マグロやはまちなどのお刺身や、湯気の立ち昇るステーキの香りが食欲をそそる。高校生の合宿にしてはあまりに豪華すぎるので、きっとこずえ先輩のポケットマネーを足しているのだろう。ひょっとしたら全額かもしれない。
しかし、僕の前の料理には、なぜかお子様ランチが置かれていた。もちろん刺身やステーキはない。代わりに小さなハンバーグと旗の刺さったオムライスがアンパンマンのプレートに盛られている。
こずえ先輩は、申しわけなさそうに頭を垂れる。
「ごめんなさい。手違いがあったらしくて、風間君の分だけメニューが変更になってたの」
絶対にワザとだろ!
僕が憮然としていると、
「……半分いるか?」
如何にも社交辞令といった口ぶりで、麻利絵はお刺身の乗った皿を少し近づける。
いらねーよ!
「……実はちょうどお子様ランチが食べたかったんだ。僕ってラッキー!!」
と、虚勢を張るのが精いっぱいだった。
虚しい。虚しすぎる。
こずえ先輩はすました顔で、両手を合わせて合掌のポーズを取った。
「邪魔なハエもこちらが気にしなければ問題ありません。それではいただきます」
「「「「「いただきます!」」」」」
邪魔なハエとは、先ほどの連中のことを指すのだろう。向こうも向こうなら、こずえ先輩もこずえ先輩だ。いがみ合うほど仲が良いというが、二人の関係とはいったい――。
「次は食堂で夕食になります。全員、遅れないように」
先頭を歩く部長は、みんなを促しながら廊下を進んでいく。
すると前方から、男性の集団が現れた。
制服と思われるブレザーを着ているところを見ると、僕たちと同じ高校生のようだ。
先頭には長身ですっきりとした顔立ちのイケメン男子がいて、細い銀のフレームの眼鏡をかけている。背後には五人の男子を従えていて、皆ふてぶてしい態度で廊下を闊歩していた。この先はゲームの間しかないはずなので、次の利用者は彼らということになる。
「……まさかこんなところでお会いできるとは思いませんでしたよ。小村崎高校の皆さん」
イケメンはブリッジを中指で押し上げると、軽く首を回した。
こずえは軽く一礼すると、
「こちらこそ。名門の沼平西高校の方とご一緒できるなんて光栄ですわ」
口調は淡々としているが、言葉の端々に嫌悪感がみなぎっている。
「僕たちこそキミたちのような素敵な女性たちと一緒の宿だなんて、本当に運がいい。最もゲームよりもゴキブリの世話が大変そうだけどね」
もしかして、ゴキブリとは僕のこと? ここまで露骨にディスるやつも珍しい。
「あら、そちらこそ、実力もないのに、大会に出られるおつもり? 恥をかくだけですから、お辞めになったほうが得策ですわよ」
バチバチと今にも火花が飛び散りそうだ。
「キミたちこそ、女子の分際で僕たちに勝てるだなんて、まさか本気で思っているわけじゃないだろう? 悪いことは言わないから、お嬢様は大人しくお花でも摘んでいなさい」
まるで昭和の少女漫画のような価値観だ。大丈夫かコイツ?
「あら? わたくしたちを甘く見ないほうがよろしくてよ。殿方が姫に負ける姿なんて、晒したくはないですものね」
こずえらしくない歯に衣着せぬ物言いだ。もしかしたらこの二人、よほどの因縁がありそうなのだが、果たして……?
「失礼するよ。こちらも暇じゃないんでね。アディオス! 三橋院こずえ」
「ごきげんよう。寺塚龍平くん」
互いに目でけん制し合うと、沼塚西高校の連中はゲームの間のへと消えていった。
こずえは何事もなかったかのごとく、歩みを戻す。
他のメンバーも小声で悪態をつきながら後に続いた。
名前を知っているからには、やはり知り合いだったってことか。それにしてもただならない殺気が漂っていたな。もしかしたら昔付き合っていたりして――まさかな。
そんな僕の思いなど完全にスルーして、ゲーム部員たちは雑談を交わしながら食堂に入っていった。
テーブルにはすでに料理が並べてあり、マグロやはまちなどのお刺身や、湯気の立ち昇るステーキの香りが食欲をそそる。高校生の合宿にしてはあまりに豪華すぎるので、きっとこずえ先輩のポケットマネーを足しているのだろう。ひょっとしたら全額かもしれない。
しかし、僕の前の料理には、なぜかお子様ランチが置かれていた。もちろん刺身やステーキはない。代わりに小さなハンバーグと旗の刺さったオムライスがアンパンマンのプレートに盛られている。
こずえ先輩は、申しわけなさそうに頭を垂れる。
「ごめんなさい。手違いがあったらしくて、風間君の分だけメニューが変更になってたの」
絶対にワザとだろ!
僕が憮然としていると、
「……半分いるか?」
如何にも社交辞令といった口ぶりで、麻利絵はお刺身の乗った皿を少し近づける。
いらねーよ!
「……実はちょうどお子様ランチが食べたかったんだ。僕ってラッキー!!」
と、虚勢を張るのが精いっぱいだった。
虚しい。虚しすぎる。
こずえ先輩はすました顔で、両手を合わせて合掌のポーズを取った。
「邪魔なハエもこちらが気にしなければ問題ありません。それではいただきます」
「「「「「いただきます!」」」」」
邪魔なハエとは、先ほどの連中のことを指すのだろう。向こうも向こうなら、こずえ先輩もこずえ先輩だ。いがみ合うほど仲が良いというが、二人の関係とはいったい――。