第35話
文字数 1,589文字
カウントダウンが始まり、ゼロになった合図でゲームがスタートした。
僕はいつものように敵の弾をよけながら、アイテムを集める。
画面上部のマップで味方の位置を把握し、まずは一番近い福水杏奈(のキャラ)の元へ向かう。
杏奈はここまでの試合で一番敵を倒している。さすがはゲーム部イチのテクニシャンだ。
しかし、彼女の操るキャラクターを発見すると、動きがなんかおかしい。
さっきまでの試合で見せていたようなキレがなく、それどころか同じところをグルグルとぎこちなく回っている。
何かの作戦かと思いきや、どうやらそうではないらしく、杏奈(のキャラ)は目の前で撃たれてしまった。
「……お、おかしい。dのキーが効かないわ――」
dのキーとは、キャラクターを動かすための大事なキーで、ゲームをプレイするためには絶対に欠かせないものだった。
杏奈の提言により、競技は一時ストップになった。
スタッフの一人がキーボードを確認すると、杏奈の言葉通り、dのキーだけが反応しづらくなっていたらしい。
寺塚を見ると、彼は余裕たっぷりに、ボキボキと首の骨を鳴らした。
「どうしました? キーのトラブルですか。キミたちも運が悪かったですね」
海荷はツインテールを揺らしながら、「まさか、あなたたちが仕組んだんじゃないでしょうね?」不敵な笑みを浮かべる寺塚に喰ってかかる。
「そんなわけないだろ? もしそうだとしても、開始前に確認を怠ったキミたちの方が悪い。……違うかな?」
ぐうの音も出なかった。アイツの言う通り、キーボードに細工が施されていたとしても、それを見逃したこっちの責任だ。
それにルール上、たとえトラブルが発生したとしても、一度殺られたキャラが復活することはない。
早くも最高のプレイヤーである杏奈を失い、劣勢を強いられる。
それでも海荷と麻利絵の活躍で、五対四に逆転した。
「よし、これで杏奈の仇は討ったわよ!」萌恵はうなだれている杏奈をチラ見すると、素早くウインクをしてみせていた。
「…………ふん!」
麻利絵も淡々とキーボードを叩きながらも、少しだけ右の口角を上げる。
……などとよそ見をしている場合ではない。
僕はできるだけ壁に身を潜ませながら、補給のタイミングを計る。
そのうち麻利絵とこずえが連続でやられ、形成逆転。
二人の話によると、モニターがたまにチラつくらしい。おそらく寺塚の連中がリモコンでノイズを送っていると推論づけた。どこまでも陰険な奴らだ。
海荷(のキャラ)に弾薬を分け与えると、次は萌恵の方へと向かった。僕にしてはこれまでで一番生き残っている。
そう思った矢先、健闘していた海荷が離脱すると、いよいよ小村崎のチームは、僕と萌恵の二人だけになった。
萌恵(のキャラ)に近づくと、彼女は岩陰に隠れながら、ショットガンを連射している。ふと、彼女の背中に赤色のポインターが浮き出ているのを、視界にとらえた。
まさかと思い、視点を操作すると、背後にある廃墟ビルの二階に、一瞬、何かが動くのが見えた。ズームしてみると、一人のスナイパーが萌恵に照準を合わせているのを確認することに成功した。
「危ない、後ろ! 後ろ!」
とっさに叫んだものの、前方のターゲットにかかりきりで、気づいた様子は全くない。
――ヤバい! このままじゃ萌恵(のキャラ)が撃たれちまう!!
初めて拳銃を抜き、スナイパーに照準を合わせようとしたが、マウスの操作が思うようにいかず、空撃ちを繰り返す。
弾も尽き果て、僕は最後の手段に出ることにした。
「うおおおお!!」
僕は萌恵の背中に立った。彼女を守るにはこの方法しか思いつかない。
まるで戦争映画のラストのように、自分を盾にしながら、恋人を庇う主人公の気分だった。
その瞬間、銃弾に倒れ、点滅して消えゆく僕(のキャラ)。
――後は頼んだぞ!
そう、心の中で叫び声をあげた……。
僕はいつものように敵の弾をよけながら、アイテムを集める。
画面上部のマップで味方の位置を把握し、まずは一番近い福水杏奈(のキャラ)の元へ向かう。
杏奈はここまでの試合で一番敵を倒している。さすがはゲーム部イチのテクニシャンだ。
しかし、彼女の操るキャラクターを発見すると、動きがなんかおかしい。
さっきまでの試合で見せていたようなキレがなく、それどころか同じところをグルグルとぎこちなく回っている。
何かの作戦かと思いきや、どうやらそうではないらしく、杏奈(のキャラ)は目の前で撃たれてしまった。
「……お、おかしい。dのキーが効かないわ――」
dのキーとは、キャラクターを動かすための大事なキーで、ゲームをプレイするためには絶対に欠かせないものだった。
杏奈の提言により、競技は一時ストップになった。
スタッフの一人がキーボードを確認すると、杏奈の言葉通り、dのキーだけが反応しづらくなっていたらしい。
寺塚を見ると、彼は余裕たっぷりに、ボキボキと首の骨を鳴らした。
「どうしました? キーのトラブルですか。キミたちも運が悪かったですね」
海荷はツインテールを揺らしながら、「まさか、あなたたちが仕組んだんじゃないでしょうね?」不敵な笑みを浮かべる寺塚に喰ってかかる。
「そんなわけないだろ? もしそうだとしても、開始前に確認を怠ったキミたちの方が悪い。……違うかな?」
ぐうの音も出なかった。アイツの言う通り、キーボードに細工が施されていたとしても、それを見逃したこっちの責任だ。
それにルール上、たとえトラブルが発生したとしても、一度殺られたキャラが復活することはない。
早くも最高のプレイヤーである杏奈を失い、劣勢を強いられる。
それでも海荷と麻利絵の活躍で、五対四に逆転した。
「よし、これで杏奈の仇は討ったわよ!」萌恵はうなだれている杏奈をチラ見すると、素早くウインクをしてみせていた。
「…………ふん!」
麻利絵も淡々とキーボードを叩きながらも、少しだけ右の口角を上げる。
……などとよそ見をしている場合ではない。
僕はできるだけ壁に身を潜ませながら、補給のタイミングを計る。
そのうち麻利絵とこずえが連続でやられ、形成逆転。
二人の話によると、モニターがたまにチラつくらしい。おそらく寺塚の連中がリモコンでノイズを送っていると推論づけた。どこまでも陰険な奴らだ。
海荷(のキャラ)に弾薬を分け与えると、次は萌恵の方へと向かった。僕にしてはこれまでで一番生き残っている。
そう思った矢先、健闘していた海荷が離脱すると、いよいよ小村崎のチームは、僕と萌恵の二人だけになった。
萌恵(のキャラ)に近づくと、彼女は岩陰に隠れながら、ショットガンを連射している。ふと、彼女の背中に赤色のポインターが浮き出ているのを、視界にとらえた。
まさかと思い、視点を操作すると、背後にある廃墟ビルの二階に、一瞬、何かが動くのが見えた。ズームしてみると、一人のスナイパーが萌恵に照準を合わせているのを確認することに成功した。
「危ない、後ろ! 後ろ!」
とっさに叫んだものの、前方のターゲットにかかりきりで、気づいた様子は全くない。
――ヤバい! このままじゃ萌恵(のキャラ)が撃たれちまう!!
初めて拳銃を抜き、スナイパーに照準を合わせようとしたが、マウスの操作が思うようにいかず、空撃ちを繰り返す。
弾も尽き果て、僕は最後の手段に出ることにした。
「うおおおお!!」
僕は萌恵の背中に立った。彼女を守るにはこの方法しか思いつかない。
まるで戦争映画のラストのように、自分を盾にしながら、恋人を庇う主人公の気分だった。
その瞬間、銃弾に倒れ、点滅して消えゆく僕(のキャラ)。
――後は頼んだぞ!
そう、心の中で叫び声をあげた……。