第24話
文字数 2,051文字
しばらく歩いたあとで角を曲がると、そこには『ゲームの間』と書かれた扉が待ち構えていた。
そこには『空室』と書かれたプレートが吊るしてあり、こずえがひっくり返すと、『使用中』に変わる。
中に入ると、昼間なのにカーテンがかけられているが、それにしても暗すぎる。おそらく太陽光を完全に遮断するために、遮光カーテンになっていると思われた。
海荷が壁にあるスイッチを押すと、蛍光灯が一瞬で光をともす。チラつきが一切なかったので、蛍光管ではなくLEDで間違いない。
床は一面フローリングになっていて、僕たちはスリッパを一旦脱ぐと、備え付けのものに履き替えた。
部屋の両側には、十台を越えるデスクが向かい合わせに並べられている。
それぞれ大型のモニターとタワー型のパソコンが一台づつ設置されていて、一緒にサターンが置いてあった。
デスク上のカップホルダーには、親切にもミネラルウォーターのペットボトルまで用意され、旅館の気配り具合が垣間見れた。
奥にはキャビネットが並び、様々な種類のゲーム機がひしめき合うように置かれている。
しかし、最も目を引いたのが、デスクの前に備えられてある椅子であった。
まるでレーシングカーのコックピットを思わせるシルエット。頭部までの高さがある背もたれは、内側に湾曲した独特なフォルムで、黒のボディにパッションレッドの太いラインが縦に二本引かれている。
だが、レースゲーム用の椅子にしては、ハンドルがどこにも見当たらない。そもそもボンバーマンはレースゲームじゃないはずだ。
どうしてこんな奇妙な椅子がセッティングされているのかと、首をかしげていると――、
「なんだ。ゲーミングチェアも知らないのか?」麻利絵は吐き捨てるように言った。
フォローするように杏奈が説明に入る。
ゲーミングチェアーとは、人間工学に基づいて開発されたゲーム専用の椅子のことだった。長時間座り続けても腰に負担がかからないような設計がなされているらしく、このタイプのゲーミングチェアは、一脚十万円以上もするのだとか。
まさにゲームの間の名に恥じない自慢の設備といえるだろう。
杏奈は続けてパソコンを指さすと、
「ち、ちなみにあれはゲーミングPCと言って、ど、どんなに処理の重たいゲームでも、快適にプレイできるようにカスタマイズされているの」
僕は感心しながらも、「やっぱりね。そうだと思った」などど、知ったかぶりを決めた。
「ほ、ほかにもゲーミングマウスやゲーミングキーボードも揃っていて、抜かりはないわ。も、もちろんモニターだってゲーミング仕様なのよ」
ちょっと待て! ゲーミングPCはまだ分かるが、マウスやキーボードなんてどれも同じだろ? しかもモニターがゲーミング仕様ってことは、ゲーム機が内蔵しているってことなのか?
そこで海荷が割って入った。
「もちろんゲーミングカーテンはとっくに気づいているわよね? 今履いているゲーミングスリッパにも」
えっ? ゲーミングカーテンにゲーミングスリッパ? そんなものまであるのか。
だが、ここで知らないそぶりを見せるわけにはいかない。
「も、もちろんだよ。そこのミネラルウォーターだってゲーミングなんだろ?」
「正解! よくわかったわね。感心感心!」海荷は腕を組みながら、嬉しそうに頷いた。
「そんなわけないでしょう!! 海荷! いい加減にしなさい!!」
萌恵はこつんと海荷の頭を叩いた。
「風見くんはゲーム偏差値が
そこまで言う? メンヘラってなんだ?
「だ、だよね……」僕はそのまま黙って下を向いていると、
「風見くんも風見くんよ。カーテンやスリッパがゲーミング仕様だなんて、少し考えればわかるじゃない。しかも、ミネラルウォーターって――やっぱりあなた、バカじゃなくて大バカね!」
萌恵の言葉通り、僕はゲーム偏差値が
こずえ先輩は注目を集めるように、パンパンと手を打った。
「皆さん承知しているとは思いますけど、今日のプレイ時間は今から四時間しかありません。次の予約が入っていますから、五分前には必ず終わるように」
部屋の時計を見ると。今はピッタリ一時。ということは夕方の五時までということだ。
携帯のアラームをセットすると、僕以外の五人は席に座り、ヘッドホンをつないでいく。僕も気後れしながら、さりげなく萌恵の隣の席に身を置いた。
バッグからディスクを取り出して本体にセットすると、萌恵を気にしながら、パワーボタンを押し、ゲームを始める。
初めての六人対戦で、いやがうえにも力が入った。
特訓の甲斐もあり、思ったよりもスムーズに操作することができた。萌恵のおかげかもしれない。違うか。
そこには『空室』と書かれたプレートが吊るしてあり、こずえがひっくり返すと、『使用中』に変わる。
中に入ると、昼間なのにカーテンがかけられているが、それにしても暗すぎる。おそらく太陽光を完全に遮断するために、遮光カーテンになっていると思われた。
海荷が壁にあるスイッチを押すと、蛍光灯が一瞬で光をともす。チラつきが一切なかったので、蛍光管ではなくLEDで間違いない。
床は一面フローリングになっていて、僕たちはスリッパを一旦脱ぐと、備え付けのものに履き替えた。
部屋の両側には、十台を越えるデスクが向かい合わせに並べられている。
それぞれ大型のモニターとタワー型のパソコンが一台づつ設置されていて、一緒にサターンが置いてあった。
デスク上のカップホルダーには、親切にもミネラルウォーターのペットボトルまで用意され、旅館の気配り具合が垣間見れた。
奥にはキャビネットが並び、様々な種類のゲーム機がひしめき合うように置かれている。
しかし、最も目を引いたのが、デスクの前に備えられてある椅子であった。
まるでレーシングカーのコックピットを思わせるシルエット。頭部までの高さがある背もたれは、内側に湾曲した独特なフォルムで、黒のボディにパッションレッドの太いラインが縦に二本引かれている。
だが、レースゲーム用の椅子にしては、ハンドルがどこにも見当たらない。そもそもボンバーマンはレースゲームじゃないはずだ。
どうしてこんな奇妙な椅子がセッティングされているのかと、首をかしげていると――、
「なんだ。ゲーミングチェアも知らないのか?」麻利絵は吐き捨てるように言った。
フォローするように杏奈が説明に入る。
ゲーミングチェアーとは、人間工学に基づいて開発されたゲーム専用の椅子のことだった。長時間座り続けても腰に負担がかからないような設計がなされているらしく、このタイプのゲーミングチェアは、一脚十万円以上もするのだとか。
まさにゲームの間の名に恥じない自慢の設備といえるだろう。
杏奈は続けてパソコンを指さすと、
「ち、ちなみにあれはゲーミングPCと言って、ど、どんなに処理の重たいゲームでも、快適にプレイできるようにカスタマイズされているの」
僕は感心しながらも、「やっぱりね。そうだと思った」などど、知ったかぶりを決めた。
「ほ、ほかにもゲーミングマウスやゲーミングキーボードも揃っていて、抜かりはないわ。も、もちろんモニターだってゲーミング仕様なのよ」
ちょっと待て! ゲーミングPCはまだ分かるが、マウスやキーボードなんてどれも同じだろ? しかもモニターがゲーミング仕様ってことは、ゲーム機が内蔵しているってことなのか?
そこで海荷が割って入った。
「もちろんゲーミングカーテンはとっくに気づいているわよね? 今履いているゲーミングスリッパにも」
えっ? ゲーミングカーテンにゲーミングスリッパ? そんなものまであるのか。
だが、ここで知らないそぶりを見せるわけにはいかない。
「も、もちろんだよ。そこのミネラルウォーターだってゲーミングなんだろ?」
「正解! よくわかったわね。感心感心!」海荷は腕を組みながら、嬉しそうに頷いた。
「そんなわけないでしょう!! 海荷! いい加減にしなさい!!」
萌恵はこつんと海荷の頭を叩いた。
「風見くんはゲーム偏差値が
二
しかないんだから、バカ正直に何でも信じちゃうでしょ? いくらおつむが弱くてキモくて口が臭くてメンヘラだったとしても、からかっていいわけじゃないんだからね!」そこまで言う? メンヘラってなんだ?
「だ、だよね……」僕はそのまま黙って下を向いていると、
「風見くんも風見くんよ。カーテンやスリッパがゲーミング仕様だなんて、少し考えればわかるじゃない。しかも、ミネラルウォーターって――やっぱりあなた、バカじゃなくて大バカね!」
萌恵の言葉通り、僕はゲーム偏差値が
二
であることを自覚している。でも、そこまでディスることないだろう? 海荷のようなゲーマーに言われたら、そりゃ、信じちまうのが道理ってモンさ。こずえ先輩は注目を集めるように、パンパンと手を打った。
「皆さん承知しているとは思いますけど、今日のプレイ時間は今から四時間しかありません。次の予約が入っていますから、五分前には必ず終わるように」
部屋の時計を見ると。今はピッタリ一時。ということは夕方の五時までということだ。
携帯のアラームをセットすると、僕以外の五人は席に座り、ヘッドホンをつないでいく。僕も気後れしながら、さりげなく萌恵の隣の席に身を置いた。
バッグからディスクを取り出して本体にセットすると、萌恵を気にしながら、パワーボタンを押し、ゲームを始める。
初めての六人対戦で、いやがうえにも力が入った。
特訓の甲斐もあり、思ったよりもスムーズに操作することができた。萌恵のおかげかもしれない。違うか。