第16話
文字数 1,658文字
一時間後。
僕は妹の部屋でマッサージをしていた。
親父からゲーム部への入部の許諾を得ることに成功したからだ。
あいつがどうやって説得したかは思い出したくもないが、要するに、残念な兄貴が学校でいじめられないためには、それしかないと弁護してくれたのだ。プライドはズタズタにされたが、げんこつ一つで済んだのは賞賛に値する。
すっきりしない結末だったが、それでもあの頑固親父を納得させたのは、妹の手腕あってのことに間違いはなかった。
そういういきさつがあり、僕はただいま、彩乃をマッサージ中というわけ。
実は以前、親父に小遣いの値上げ交渉をこいつに頼んだことがあり、成功報酬として一か月の間、合気道の稽古の後にマッサージをさせられたことがあった。
おかげでマッサージの腕はそれなりに上達したが、運動部でもない僕にとっては無用の長物。ましてやゲーム部のみんなにバレでもしたら、それこそマシーンとしてこき使われそうだ。
今、羨ましいと思ったそこの読者。きみの意見もわからないではない。
カワイコちゃんに合法的に触れるのだから、やっかむ気持ちもわかる。
だが、これまでの流れを汲むと、そう一筋縄でいかないのは自明の理。
他意はなくとも、少しでもおかしなところに触れてしまったら、それこそ半殺しの目に合うのは間違いない。僕だって早死にしたくはないのだ。
「お兄ちゃん、腕、鈍ったんじゃない?」
「そうか? 仕方ないだろ、久しぶりなんだから」
ベッドの上でうつぶせになっている妹にまたがる格好で、僕はコイツの腰を揉んでいる。
テクニックが衰えている自覚はないのだが、彩乃がそういうのであれば、マッサージレベルが低下しているのは否定できそうにない。
妹は白のTシャツにホットパンツ。肉付きの良い太ももを惜しげもなく露出させている。
情けない兄が相手だと、乙女としての恥じらいなど、微塵もないのだろう。
やがて、腰から肩へと移り、ヒップと太ももを跳躍して、今度はふくらはぎに入った。
「痛い!」
彩乃は顔を伏せたまま声を上げた。わざとではないが、つい、力が入ってしまった。
「ゴメン。痛かった?」
「だから痛いって言ったでしょ? 頭だけじゃなくて耳まで悪くなったの?」
いちいちムカつくヤロウだ。だが、楯突いたところで、何の解決にもならない。むしろマッサージくらいで済んだのだから感謝すべきなのだ。
しかし、足首に至ったところで、また力が入ってしまった。
故意ではないとはいえ、腹が立った仕返しが無意識に働いたと思われる。
ドス!
鈍い音が鳴り、彩乃の足の裏がみぞおちに入った。
「……うがっ!!」
強烈な痛みと共に、バランスを崩しながら前のめりになると、僕は腹を押さえながら、頭から思い切り倒れ込んでしまった。
ぶにゅ!!
受け身も取れず、顔面から突っ込んだにしては、クッションのおかげで痛みはなかった。
なかったのだが、そのクッションが問題だった。
柔らかい二つのふくらみ。
そう。妹のおしりに直撃したのである。
「何すんのよ! ヘンタイっ!!!!!」
速攻で足四の字を喰らい、太ももの感触を味わうどころか、タップをする余裕すら与えてもらえず、そのまま本日二度目のブラックアウトを経験するはめになった……。
「お前って本当にラッキーボーイだよな」
開口一番の言葉がそれだ。
週明けの月曜日のことだ。
嫌味交じりに口をとがらせる宮川は、登校した途端に詰め寄ってきた。きっと林麻利絵の下着姿をガン見したことを言っているのだろうが、その後の惨劇までは把握していないらしい。
どうしてこうも都合の悪いことばかりが伝わるんだ?
クラスの女子たちは完全にシカト状態。男子すらも近寄ってこなくなった。
痴漢の常習犯のレッテルを貼られ、僕はひとり孤独に、授業に励む。
脳出血になりかけた上に、妹にまで殺されかけた僕に、同情する者は一人としていなかった。
笠原萌恵を見ると、彼女だけは事情を知っているらしく、憐みの視線を向けている。それがせめてもの救いだった。
僕は妹の部屋でマッサージをしていた。
親父からゲーム部への入部の許諾を得ることに成功したからだ。
あいつがどうやって説得したかは思い出したくもないが、要するに、残念な兄貴が学校でいじめられないためには、それしかないと弁護してくれたのだ。プライドはズタズタにされたが、げんこつ一つで済んだのは賞賛に値する。
すっきりしない結末だったが、それでもあの頑固親父を納得させたのは、妹の手腕あってのことに間違いはなかった。
そういういきさつがあり、僕はただいま、彩乃をマッサージ中というわけ。
実は以前、親父に小遣いの値上げ交渉をこいつに頼んだことがあり、成功報酬として一か月の間、合気道の稽古の後にマッサージをさせられたことがあった。
おかげでマッサージの腕はそれなりに上達したが、運動部でもない僕にとっては無用の長物。ましてやゲーム部のみんなにバレでもしたら、それこそマシーンとしてこき使われそうだ。
今、羨ましいと思ったそこの読者。きみの意見もわからないではない。
カワイコちゃんに合法的に触れるのだから、やっかむ気持ちもわかる。
だが、これまでの流れを汲むと、そう一筋縄でいかないのは自明の理。
他意はなくとも、少しでもおかしなところに触れてしまったら、それこそ半殺しの目に合うのは間違いない。僕だって早死にしたくはないのだ。
「お兄ちゃん、腕、鈍ったんじゃない?」
「そうか? 仕方ないだろ、久しぶりなんだから」
ベッドの上でうつぶせになっている妹にまたがる格好で、僕はコイツの腰を揉んでいる。
テクニックが衰えている自覚はないのだが、彩乃がそういうのであれば、マッサージレベルが低下しているのは否定できそうにない。
妹は白のTシャツにホットパンツ。肉付きの良い太ももを惜しげもなく露出させている。
情けない兄が相手だと、乙女としての恥じらいなど、微塵もないのだろう。
やがて、腰から肩へと移り、ヒップと太ももを跳躍して、今度はふくらはぎに入った。
「痛い!」
彩乃は顔を伏せたまま声を上げた。わざとではないが、つい、力が入ってしまった。
「ゴメン。痛かった?」
「だから痛いって言ったでしょ? 頭だけじゃなくて耳まで悪くなったの?」
いちいちムカつくヤロウだ。だが、楯突いたところで、何の解決にもならない。むしろマッサージくらいで済んだのだから感謝すべきなのだ。
しかし、足首に至ったところで、また力が入ってしまった。
故意ではないとはいえ、腹が立った仕返しが無意識に働いたと思われる。
ドス!
鈍い音が鳴り、彩乃の足の裏がみぞおちに入った。
「……うがっ!!」
強烈な痛みと共に、バランスを崩しながら前のめりになると、僕は腹を押さえながら、頭から思い切り倒れ込んでしまった。
ぶにゅ!!
受け身も取れず、顔面から突っ込んだにしては、クッションのおかげで痛みはなかった。
なかったのだが、そのクッションが問題だった。
柔らかい二つのふくらみ。
そう。妹のおしりに直撃したのである。
「何すんのよ! ヘンタイっ!!!!!」
速攻で足四の字を喰らい、太ももの感触を味わうどころか、タップをする余裕すら与えてもらえず、そのまま本日二度目のブラックアウトを経験するはめになった……。
「お前って本当にラッキーボーイだよな」
開口一番の言葉がそれだ。
週明けの月曜日のことだ。
嫌味交じりに口をとがらせる宮川は、登校した途端に詰め寄ってきた。きっと林麻利絵の下着姿をガン見したことを言っているのだろうが、その後の惨劇までは把握していないらしい。
どうしてこうも都合の悪いことばかりが伝わるんだ?
クラスの女子たちは完全にシカト状態。男子すらも近寄ってこなくなった。
痴漢の常習犯のレッテルを貼られ、僕はひとり孤独に、授業に励む。
脳出血になりかけた上に、妹にまで殺されかけた僕に、同情する者は一人としていなかった。
笠原萌恵を見ると、彼女だけは事情を知っているらしく、憐みの視線を向けている。それがせめてもの救いだった。