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文字数 909文字

「文彦君、私は文彦君みたいに賢くないからさ、上手く説明できないけど、私、文枝が文彦君に後を継がせたいのって、単に同情だけじゃないと思うよ。なんか、文彦君って、私なんかよりずっと頭良いくせに、謙虚で、平等に物事をみることができる人だと思う。そんなところが、文枝は君がリーダーに向いているって思ったんじゃないかな?」
「え?」
「今朝、文彦君を見た時、私、文彦君のこと、根暗で頭でっかちな、ガリ勉タイプかと思っていた。でも、今、文彦君って、とっても逞しいと思ってる。身体じゃなくて、心っていうか、気持ちっていうか……」
 文彦君は私の言ったことを、説得の為の嘘だと思ったのだろうか? それとも、調子の良い(おだ)てと取ったのだろうか? ただ、文彦君はニッコリと笑みを浮かべて、それに対しては何も言わなかった。

 私たちはミックスフライプレートのサラダとコーヒー付きセットを食べた。二人とも食事中には会話はしなかった。気まずいと言うのとは少し違う。何か、喋るのは、食事しながらではいけない様な気がしたんだ。
 だから、食事が終わって、コーヒーをお替りした時、また少しだけ話をすることが出来た。
「晶さんも……」
「え?」
「僕、晶さんって、単にガサツな女の人だと思っていました」
 そ、そりゃ、私は自分をガサツで無いとは言わないけどさ……。
「それなのに、修一さんは晶さんが好きみたいだし、耀子ママは晶さんのことを可愛いって言うし、姉さんも『あいつは見た目以上に繊細だ』なんて言うの……、実は僕、不思議でしようがなかったんです。でも話していて分かりました。晶さんは素敵な人だって」
 私は今、恥ずかしくて真っ赤になっている気がする。
 なんか、面と向かって褒められるのって、慣れていないせいか、どうも調子が狂ってしまう。
「あ、あ、ありがとう……」
「僕は……、それでも、姉さんの方が跡継ぎには向いていると思うけど、少し真剣に考えてみます」
 文彦君はそう言って微笑んだきり、また何も喋らなくなった。
 私は何となく恥ずかしくて、自分からは何も口にすることが出来なくなっていた。そして、変な話しだけど、手を繋ぐのも出来なかった。なんでだか、私にも良く分からない。
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