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文字数 759文字

「晶ちゃん、あなたも、もう少し大人になりなさい。そんなこと、黙ってればいいでしょう」
「え?」
「人はね、誰一人清廉潔白じゃないのよ。誰も隠したいことがあって、誰も見っともなくて人に言えないことがある。嘘も吐くし、悪いことも、卑怯なこともする。でもね、だからって、駄目じゃないの……。そういう人たちだって、人から尊敬される様な、立派な行動をすることもあるし、愛情深い行動をとることもあるわ。一つ何か悪いことをしたからって、それを非難することは、誰にも、他人にも、自分自身にも出来ないのよ。
 あなたなんか、男の人に抱かれただけでしょう。悪いことした訳でもないし、そんなの黙ってなさい!」
「で、でも……」
「それを隠していても、決して悪いことではないわ。それを暴く方が、むしろ卑劣な行為なのよ!」
「でも、隠し事はしたくないし……」
「あなた、仮に男の人と結婚したとして、愛し合うその人が、過去、別の女の人と関係があったと知ったら、どうする心算? 散々(なじ)って離婚するの? 彼は卑劣な男だって言い続けるの? それを隠していたからって、もう許すことは出来ないの?」

 耀子さんはそう言ったきり、もう何も言いはしなかった。
 私は彼女の後を、夢の世界を歩くようについて行った。そう、こちらの人間世界の方が夢の世界である様に。

 私はその後、耀子さんの運転する赤いスポーツカーに乗せられ、首都高を走り続けた。首都高は両側を壁に囲われ、左右にくねくねと曲がる感じなので、どこをどう走っていったのか分からない。
 行先案内板や標識、偶に見える景色などに注意すれば別だろうが、何か夢心地でぼーっとしている私には、目隠しで西瓜割りの前にクルクルまわされた様な感じでどこにいるか? 何も分かりはしなかった。
 そうして、私は自分の家まで彼女に送って貰ったのだ。
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