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文字数 969文字

 私がもう普通の地味な女の子になりつつあった、ある日の夕方のことだ。学校からの帰り、家の近くの駅をでた時、私はおかしな一団に取り囲まれた。
 彼らはセーターに上着とズボンと言うラフな格好だったが、サングラスにマスク、帽子を目深に被っていて相当怪しいと言えなくもない。ただ最近はマスクも珍しくないし、皮膚を外気に曝したくない人も多いので、普通にしていれば目立つという程でもない。
「日色晶さんだね? 一緒に来て貰えないかな?」
 リーダーらしいのが、私の正面に立って話し掛けてきた。150センチ位の小柄な男で、声を聞くと随分年配の様に思える。
 こいつらが何を企んでいるかは、サングラスやマスクで相手の表情が読めないので私にも分からない。
 そんなこともあり、私は相手の意図を探る為、相手の要求に従うことにした。

 最近は軽率な行動を控えていたのだが、若干慣れて退屈してきていたのと、彼らが全体に小柄で弱そうに見えたので、つい昔の悪い癖が出てしまった。
 こいつらは、私を取り囲むように位置して移動していく。誘いに乗ってやったんだ。逃げる訳ないだろう! そう思ったが、昔ほど自分の強さに自信がある訳でもなかった。正直、怖い。
 前の方に黒いセダンが見える。どうやら、こいつらの車らしく、こいつで私を連れ攫おうと言うことらしい。車の脇まで行くと、後部座席のドアが開いた。
 こいつらは、手を出すことはなかったが、私が逃げられない様な位置に立ち、私はこいつらに挟まられる様な形で車に乗る以外なかった。

 こいつらが私を連れてきたのは、東京湾に近いどこかの工場の空き倉庫、確かに人気は無さそうだし、悪事を行うなら打って付けの場所だろう。
 だが、玩具にするにしても、殺すにしても、私なんかに何かするにしては、あまりにお金を掛け過ぎている。仮に誘拐で身代金取ったとしても、私の家なんかじゃとても元が取れるとは思えない。お姫様でもなければ……。
 私は自分の言葉で、彼らの犯罪の目的が理解できたと思った。
「手前ぇら、私を誘拐して、私の家じゃなく、文彦君に身代金を要求しようという腹だな」
 しかし、年嵩のリーダーは別の理由を答えたんだ。
「いや、身代金など必要ない。お前が文彦様の前から消えてくれさえすれば良い。お前など、生きていようが死んでしまおうが、儂らは全く構わないのだ」
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