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文字数 919文字
山橘さんは、喜左衛門様の目の前で裸になれと言っているんだ。
そりゃ、確かに湯屋は混浴で、そこでは何も気にせず素っ裸になるけどさ、何も喜左衛門様の前で裸にすることはないだろう? 湯文字や腰巻ぐらい着けたままで良いかも知れないが、濡れりゃ裸と何も変わんないんだ。あんなの。
私にとっちゃ、狸顔の連中なんか、最初は人間とは思えなかったんで気にせず湯屋にも行けたんだが、最近は自分が別物とは思えなくなってきてるし、喜左衛門様は、どうも最初から人間の様な気がして仕様がないんだ。それを、この婆さんは!
「山橘、その様なこと良いでは無いか? 儂は出掛けるよ」
「なりませぬ。若も、この娘を側室に持とうなどと考えるのであれば、この娘に気を使うことなど、この山橘、許す訳には参りませぬ。今後、その様な者が側室におっては、家臣一同安心して殿に従うことなど出来ません。どうしても、この娘を所望するとの仰せであれば、有無を言わせず、この場でこの娘を手籠めに為されい! そうでなければ、殿の威厳というものが損なわれます!」
お、おい! なんてこと言うんだ!
私は怖くなって長屋から飛び出そうとした。しかし、袖を捕まれて逃げることができず、弾みで土間から畳の上に転がされてしまう。
袖を掴んだ手、私はその手の、転がした相手の顔を見た。それは、山橘さんではなく、喜左衛門様だった。
「晶、其方 、儂の側室になれ! 不自由はさせぬ」
「だめ! 私には思う人がいる!」
「修一という男か?」
「なんで、そんなことを?」
「其方 が、幾度も寝言で呟いて居った……」
うわっ! 私、寝ながらそんなこと言ってるの? 自分じゃ夢を見ない質 だと思ってたけど、わ、わ~!!!
「儂も男だ、床にいる其方 を見て、幾度抱こうとしたことか……。だが、その男の名前を聞かされ、儂の想いは挫け、思い出す度に心折られて居ったのじゃ。儂は男らしく、勇気をもって、その名に挑む! 良いな、晶!」
ま、待て! 「勇気を持って」って、そんなことに勇気を持たなくていい!
私も腕力には自身のある方だけど、剣の修行やらを積んだ喜左衛門様に、力では敵うわけがない。私は抵抗しようとしたのだけれど、簡単に組み敷かれてしまっていた。
そりゃ、確かに湯屋は混浴で、そこでは何も気にせず素っ裸になるけどさ、何も喜左衛門様の前で裸にすることはないだろう? 湯文字や腰巻ぐらい着けたままで良いかも知れないが、濡れりゃ裸と何も変わんないんだ。あんなの。
私にとっちゃ、狸顔の連中なんか、最初は人間とは思えなかったんで気にせず湯屋にも行けたんだが、最近は自分が別物とは思えなくなってきてるし、喜左衛門様は、どうも最初から人間の様な気がして仕様がないんだ。それを、この婆さんは!
「山橘、その様なこと良いでは無いか? 儂は出掛けるよ」
「なりませぬ。若も、この娘を側室に持とうなどと考えるのであれば、この娘に気を使うことなど、この山橘、許す訳には参りませぬ。今後、その様な者が側室におっては、家臣一同安心して殿に従うことなど出来ません。どうしても、この娘を所望するとの仰せであれば、有無を言わせず、この場でこの娘を手籠めに為されい! そうでなければ、殿の威厳というものが損なわれます!」
お、おい! なんてこと言うんだ!
私は怖くなって長屋から飛び出そうとした。しかし、袖を捕まれて逃げることができず、弾みで土間から畳の上に転がされてしまう。
袖を掴んだ手、私はその手の、転がした相手の顔を見た。それは、山橘さんではなく、喜左衛門様だった。
「晶、
「だめ! 私には思う人がいる!」
「修一という男か?」
「なんで、そんなことを?」
「
うわっ! 私、寝ながらそんなこと言ってるの? 自分じゃ夢を見ない
「儂も男だ、床にいる
ま、待て! 「勇気を持って」って、そんなことに勇気を持たなくていい!
私も腕力には自身のある方だけど、剣の修行やらを積んだ喜左衛門様に、力では敵うわけがない。私は抵抗しようとしたのだけれど、簡単に組み敷かれてしまっていた。