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文字数 727文字

 私は飯屋を探すことにした。
 狸世界は時代劇のセットの様な世界だ。時代劇なら良く同心とかお奉行が、飲み屋で飯を食っている。そんな飲み屋の一つや二つ、狸世界にだって探せばあるはずだぜ。
 でも、狸世界の食い物って……、まさかバッタとか、カブトムシじゃないよな? 出来れば直立して服着ている狸なんだから、そっちの方は人間形式にして貰いたいところだが……。
「気を付けろ! こちとら急いでんだ!」
 そんなことを考えて、往来をボーっと歩いていると、町人が私に体当たりしてきた。しかし、これだけ広い往来で、どうやると人とぶつかるんだ? と思ったが、私はそれが直ぐに態とだと気が付いた。
「掏摸だ」
 私は懐を確かめた。確かにさっきしまった布を巻いた財布が無くなっている。

 私は逃げて行く町人の後を追いかけた。
 だが、追いつけそうにない。あっちは旅館の寝間着にパンツ一丁みたいなものだが、こっちは和服を着ていて足を大きく開けないんだ。絶対に無理だぜ。
 と、目の前で掏摸が侍風の男に捕まっている。追いつくチャンスだ!
「何しやがんだ! 三一(さんぴん)!」
「お主こそ、お女中の懐を狙うとは不届きな奴、成敗してくれる、これになおれ!」
 侍は掏摸の右手首を掴んで捻り上げている。そして私がやっと追いつくと、町人の懐に手を突っ込み、私の財布を取り出して、私に差し出してきた。
「お女中、これはお女中の物ではないかな?」
「あ、ありがとうございます。た、助かりました」
 確かにそれは私の懐にあった財布。そ、それにしても、このお侍、なかなか二枚目で格好いい! 私はちょっと照れて俯いてしまった。
 あれ? 私、狸顔の善し悪しが分かる様になっている! それに、なんか、狸顔に別段違和感を感じなくなっているぞ!
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