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文字数 854文字

「おい、どう言うことだ?」
 私は帰ることを止め、元の席、文枝の前に座り直して、文枝の言葉を問い質した。
「こっちが訊きたい……」
 文枝は頭を抱えてしまっている。
 と、取り敢えず、マスターがヤキモキしているので、私はいつもの普通もんじゃを頼んでおいた。

 私は少し落ち着いてきたので、少し文枝から状況を聞くことにした。
「文彦君がそんなこと言ってるのか? で、でも、彼はまだ中学生だろ? 結婚なんて、冗談じゃないのか? あるいは断る為の口実か」
「私も最初は冗談だと思った……」
 自分で言ったことだけど、人に言われると腹が立つな、この台詞……。
「冗談とは思ったんだけど、一応、文彦に確かめたんだ……。あいつ、本気だ。本気でお前と結婚したいと思ってる。修一と競うのも覚悟の上でだ」
「し、しかし中学生だろ……、文彦君は」
「だったら、お前、文彦の前で裸になれるか? 相手が子供だって言うなら問題ないだろう?」
「そ、それとこれとは話しが別だろうが? それにしても、文彦君が結婚できる歳になるには、まだ何年もある。結婚なんて、まだまだ先の話だ。それ迄には、もっと素敵な女性が幾らでも現れるだろう?」
「それはそうだ……」
 これも素直に同意されると、何となく腹が立つ。
「だが、そういう意味では、跡継ぎも大人になってからの話しだ。あいつが言うには、自分が跡継ぎとして相応しいなら、大人になった時、修一以上の男としてお前は認めてくれるって言うんだ。それで修一に負ける様だったら、跡継ぎでない修一以下の男なのだから、跡継ぎになるべきではないって」
「そ、そんな……、屁理屈だ」
「いや、筋は通っているよ。少なくとも、お前はまだ独身なんだ。人の女房を奪おうってんじゃない。競おうってんだ。誰に憚ることもない」
「それは、そうだが……」
「お前たちだって、直ぐには結婚する心算はないのだろう? それまでの間、文彦にだって、お前を口説く権利がある。そして、その結果、お前を女房に出来るのなら、あいつも自信を持って親父の後を継ぐって言えるんだと思う……」
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