(3)

文字数 942文字

 私とお侍様は、個別の卓袱台みたいのに乗せた定食を

に口に運び続けた。だが、これで本当に

なのか、自分でも自信ないがな。
 こうして見ると、他の女子高生が彼氏の前では「自分は屁もこかない」なんて顔するのも分からんでもない。どうせ直ぐにバレるんだが、初対面からガサツだと思われるのも何だしな。今回だけだから、ま、いいだろう。

 私は食事を終えると、恩人のお侍様の後に続いて出会い茶屋から出てきた。しかし、恥ずかしいなぁ、何も(やま)しいこと無いんだが……。
「まぁ良い。其方(そなた)が何を企んでいようとも、儂には構わん。腹いっぱい飯を馳走になったしのう」
 お侍様は、大したことでもないとばかりに高笑いをしている。私は「そんなことありません」と言いたかったのだが、何を言っても嘘に聞こえそうなので、結局、何も言わずに黙っていた。
「して、其方(そなた)はこれからどうする心算じゃ?」
「いえ、何も決まっては……」
「ならば、いっそのこと、儂の女房にでもなるか? 出会い茶屋で逢引きした間柄でもあるしな。それに、持参金は儂が一生遊んで暮らせる額を持って居る」
「そ、そんな……」
(たわむ)れじゃ、許せ」
 私はまた真っ赤になって照れているに違いない。だが、私はこの世界では行くあても無いし、食事の度に出会い茶屋に行く訳にも行かないだろう。暮らしていくには、どこか家を持たねばならぬだろう。そうは言っても紹介も無しに、家を貸してくれる保証はない。となると、もし、もしだけど、狸世界で生き続けるのだとしたら、このお侍の奥方に納まって暮らしていくってのが一番じゃないだろうか?
 私はとんでもないことを想像してしまった。修一、ご免!
 しかし、このお侍様、狸顔なんだけど修一に似ているし、何か雰囲気とかもあいつそっくりだ。なにか朴訥って言うか、素朴って言うか……。
 しかし、私、この狸世界に馴染んできたなぁ。お侍様が狸侍だって、全然変に思わないものなぁ……。
其方(そなた)さえ良ければ、儂の長屋で暮らすが良い。まぁ口性ない連中ばかりで落ち着くことはないがな。その間、儂は八兵衛のところにでも厄介になろう」
「いえ、お侍様さえお嫌で無ければ、奥方にはなれませぬが、ご一緒させてくださいまし。私、長屋暮らしなど経験もなく、色々教わらねばなりませんから」
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