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文字数 1,250文字

 さすがに私も、修一と文枝が兄妹だとは思いも寄らなかった。
「あたしの家庭の事情なんで、隠してた訳じゃないんだが、話す機会がなかったんだ。悪く思うなよな」
 私が唖然としていると、文枝はその説明を続ける。
「あたしは妾腹、親父の愛人の子でさ、修一は正妻の子。同じ歳なんだけど、あいつの方が少し兄貴なんだ」
 文枝はあっけらかんと話していたけど、私はそんな世界ってのもあるんだな……って思ってた。親父がいて、お袋がいて、それが普通だと思ってた。
 でも、そう言うことは、修一と文枝の父さんって人は、二人の女性と同時に関係を持って、子供まで創ったってことか? それじゃ耀子さん、あんまりに可哀想じゃん……。
「お前も知っている通り、あたしは下町の小学校に通っていた。小学校の四年の時だったかな、あたしのことを突然親父が認知してくれたんだ。それであたしは一躍、貧乏少女からお嬢様に大変身って訳さ。でもさ、そんなの嫌じゃん。だから中学までは今の公立に通わせて貰うことにして、高校から修一と一緒の、お金持ち私立学校に行かされたってことなのさ」
「それで、藤沢君って、他人行儀に呼んでたんだ……」
「あいつ、見た目は良いとこの坊ちゃんじゃん。さすがに最初は気を使ったよ」
 文枝はその時のことを思い出したのか、ニヤニヤ笑ってる。確かに修一をお坊ちゃんだって思ってたって、笑えるよな。
「でも、耀子さん……、ショックだっただろうな……」
「耀子ママ? 全然平気だよ。お袋のことを知った上で、あたしと弟の文彦を親父に認知させたのは耀子ママだもん。耀子ママには、お袋やあたしたち姉弟、それに親父だって頭が上がらないんだ。ま、親父の会社の女帝だよな」
「女帝?」
「社外相談役ってのか、筆頭株主ってのか、良く知らないけどさ、何か親父より偉いみたいでさ、お祖父ちゃんも頭が上がらないみたいなんだ! ま、一言で言うと化け物だよな。勿論、あたしにとっちゃ、いい義母だぜ。一緒に飯食ってっても楽しいし、相談にも乗ってくれるしな。」
 化け物っての、何か分かる気がする。
 耀子さんって、どこか人間離れしたところがあるものな。修一が耀子さんを悪魔だって言うのも、私には少し分かる気がするし。
「ま、そう言う訳だ。あたしゃ修一にゃ興味ないからさ、心配しなくていいぜ。未来のお姉ちゃん!」
 じょ、冗談じゃない! 最悪(最良か?)の場合、こいつが義理の妹になるってことか? なんか、気色悪いぞ……。

「そ、それにして文枝、お前、そんなに金持ちになったんなら、少しは奢ってくれてもいいだろう? どうしていつも、割り勘なんだよぉ」
「あたしもお袋も、貧乏性なんだ。仕方ないだろう? お袋なんて、今でも小遣いケチってやがるし、あたしより、よっぽど有希の方が金持ちだぜ。まぁあいつも化け物だし、いくらでも金を稼げるしな」
 何か複雑な家庭の様だ。取りあえず、今の所はこの家庭の事情に私は関係が無い。そりゃ、関係できりゃ嬉しいが、出来たとしても、早々に修一と駆け落ちしそうな気がする。
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