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文字数 923文字

「まぁ言っておくが、親父は反社会勢力なんかじゃねぇからな」
「だったら、文枝が跡継ぎゃいいだろ?」
「嫌なんだよ、あたしゃ昔から長って名の付くもんがさ。そもそも、本来なら修一が跡継ぐ筈なのに、あいつは親父から跡継ぎ失格の烙印押されちまって、突然、こっちに御鉢が回ってきたって訳なんだ」
 しかし、それにしても我儘な奴だな。自分が嫌だからって、弟に責任を押し付けようってんだから。
「私は嫌だぞ。お前と弟で相談すれば良いだろうが!」
「そう言うなよ。お前の義理の弟になるかも知れねぇ奴なんだからさ」
 馬鹿やろう。何てこと言うんだ! 恥ずかしいじゃないか!
 私が(たぶん)真っ赤になって動揺しているのをドヤ顔で見ながら、文枝はこの面倒な役目を私に引き受けさせようとする。
「な、話すだけでいいからさ。引き受けるかどうかは文彦次第さ。勿論、あいつが引き受けてくれりゃ、弟にだけ苦労させたりしないさ。あたしだって文彦に全面協力させて貰うよ。な、頼むよ。よ、男前!」
「お前なぁ~」
「恩に着るからさ。親友だろう?」
 おい、私は仏様じゃねえぞ。まだ死んでもいないのに拝んだりするんじゃねぇ!

 結局、文枝の強引な頼みに負け、私は(何の日だか忘れたが)次の祭日に文枝の弟と映画を見に行く約束をさせられちまった。
 正直、私には、文枝の弟についての記憶があまり残っていない。小さい頃、文枝の後ろに隠れる様に付いてきた、気の弱そうな男の子が多分、文彦君だったのだろうと私は思う。
 その夜、私は修一に文彦君と映画に行くことをショートメールで伝え、併せて文彦君の印象を修一に尋ねた。だが、修一も文枝は兎も角、文彦君にはあまりあった事がないとのことで、彼の印象を掴むことは出来なかった。
 しかし、それにしても修一の奴、少しは焼餅とか焼けんのか?
 文枝の弟とはいえ、一応男の子だぞ。それが自分の未来の愛妻と映画に行こうってんだから、少しは心配ぐらいしろってんだ。それを「俺もその映画見たかったなぁ。パンフ買って来いよ」だなんて、だったらお前も一緒に来いってんだよ。
 まぁ、そんな訳で、その日私は朝九時に、駅前の定番待ち合わせスポットに行き、文彦君が待ち合わせにやって来るのを待っていたんだ。
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