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文字数 813文字

 大体、休日にこんな場所で待ち合わせをして、知っている奴に合わないと思う方が不思議だぜ。
 一応、女子はチラっと見るだけで失礼にも鼻で笑うだけだが、男子に関しては見ない振りしていく奴ばかりでなく、良い玩具を見つけたとばかりに話し掛けてくる奴もいる。
「よぉパンツ、こんな所でお前、何してんだぁ?」
 同じクラスの阿呆が一人、私に話し掛けてくる。そもそも私の名はパンツじゃねぇっての! まぁ公衆の面前で、綽名をフルネーム言われるよりはましだがな。
「待ち合わせだよ。決まってんじゃねぇか」
「へぇ~、待ち合わせね。相手は不良の田中文枝か? それとも最近、パンツが付き合ってる色男か?」
 正直、こんな馬鹿野郎とはこれ以上、話したくもない。大体、不良なのは文枝じゃなくて、手前ぇの方だろうが!
「うっせーな!」
「ま、最近、彼氏の影響かも知れねぇが、パンツも可愛い気が出てきたしな、応援してやっから頑張れよな」
 うっぜー! 全く……。手前ぇなんぞに応援なんかされたくない! と思いつつも少し嬉しいかな? だけど今日は、修一とのデートじゃないぞ!
 そんなことを考えていると、向うから中坊位のひ弱そうな少年が歩いて来る。少年は、この阿呆にしか見えない級友と私の間に入って私に話を始めた。
「晶さんですよね、うん、中学の時の写真と殆ど変わらない」
「あ、あなたは?」
 自分でも馬鹿な質問だと思う。ここで彼と待ち合わせていたのだから、彼に決まってるじゃないか! でも、言ってしまってから気付いても言い直せる訳も無い。私は所詮この程度の頭なのさ。
「僕は田中文枝の弟、文彦です」
「あ、久し振り」
 私はそう言ってから、阿呆の級友に「彼とデートなんだ。じゃーな」と言って、文彦君の手を取ってさっさと駅の方に歩き出した。後では、振り向きゃしないが、阿呆が、一層の阿呆面して見送っているに違いない。
「いいんですか?」
「いいのよ。早く電車に乗って、日比谷まで行きましょう」
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