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文字数 883文字

「ほら、いつまで寝てるの? いい加減目を醒ましなさい!」
 私は聞き覚えのある声に起こされた。そう、これは修一のお母さん、耀子さんの声だ。

 目を開けてみると、そこは私が連れ込まれた海に近い工業地の倉庫。私は椅子に座らされたままだったが、後手に縛られた縄は既に解かれている。
「全く……。こんな状況で縛られながら寝ちゃって、気持ちよさそうな夢まで見てるなんて、どういう神経しているのかしらね?」
 え、え? ああ、あれは全部、夢だったんだ……。
「私、助かったんですね。あ、あの……、あの、文枝の部下の人たちは、どうなったんでしょうか?」
「あら、彼らに仕返しでもして欲しかったの?」
「いいえ、出来れば私を殺さなかったんだし、許してやって欲しいなって……」
「なら良かった。あいつらに私からは何もしてないわ。でも、文枝ちゃんは相当怒ってたみたいだから、早めに文枝ちゃんに電話した方がいいかもね」
 なんか、耀子さんなら、彼らを許す様な気がしていた。
「それにしても、晶ちゃん、縛られて喜ぶなんて、私と趣味合うわね! 何の夢見ていたのかしら? どう? 気持ち良かった?」
「気持ち良いわけ無いです!! いいえ、嘘、気持ち良くは無かったけど……、嫌じゃ無かった。なんか、満されていくっていうか、安心するっていうか……、これが幸せって言うものなのかなって思っていました」
「そう、それは良かったわ。じゃ、帰りましょうか?」
 私の前で、屈んでくれていた耀子さんは、立ち上がり、私に背を向け倉庫から出て行こうとする。でも、私は椅子から立ち上がることが出来なかった。
「耀子さん、耀子さんは、修一と私が別れても、仲良くしてくれるって言ってましたよね。耀子さん、私とずっと仲良くしてくれますよね」
 耀子さんは立ち止まった。でも振り返りはしない。
「勿論よ、どうしたの?」
「あ、あれ、本当に夢だったのですか? 私、あの世界で……、修一以外の男の人に身体を許してしまいました。夢だったとしても……、私、あの世界が現実だと思っていたにも関わらず、それを受け入れました。も、もう私……、修一に合わす顔が在りません」
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