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文字数 1,109文字

「で、お前、文彦に何をした?」
「言っただろ! 何もしてない!」
「そうだよな……、お前が色目使っても、気持ち悪いだけだもんな」
 事実なんだが、面と向かって言われると、酷く腹が立つ。

「おい文枝、もんじゃが焦げちまうぜ」
 私はさっきから、はがしをペロペロ舐めてるが、文枝は全く自分のもんじゃに手を着けていない。こいつにしてみれば、相当ショックだったんだろう。
 文枝は小さく頷くと、もんじゃをはがしで食べ始めた。

 そうして物を口にしたので、落ち着いたのかも知れない。文枝はさっきとは違い、少しゆっくりと私に物を訊ねてきた。
「で、晶はどう思っている?」
「私か? 私は正直嬉しいぜ。でも、私にとっちゃ文彦君は子供だ」
「じゃ、修一を選ぶってのか……」
「もし、今決めるってんならな」
「そうか……」
「文彦君はまだ、結婚なんて考えるのは早すぎる。それは私も同じことだ。だから、今はどっちが結婚相手に相応しいかなんて、考えても仕方ないだろ? 勿論、どっちも私にゃ勿体ないほどの相手さ。私が偉そうに選ぶなんざ、おこがましくて出来る訳がない」
「でも、このままだと、どちらかを選ばなきゃなんないぞ!」
「私は男の価値ってのは、一瞬では決められないと思うんだ。一日一日、日々の積み重ね、その長い時間を全て合わせて、一生の長さで決まるもんじゃないかと思うのさ。もし、修一か、文彦君か、どちらかが上か比べるとしたら、それ迄の生き方、それからの可能性、全部合わせて判断しなきゃならないだろう。でも、それを判断するのは私じゃない。私は……、自分を愛してくれる人を選ぶだけ。私が愛せる人を選ぶだけ。それだけのことさ」
「お前らしいな……」
「文彦君に伝えてくれ。私は修一とならば結婚してもいいと思っているし、未来の文彦君なら私の立派な旦那様になれると思う。私がその時、誰を選んでいるかは分からないけど、文彦君がそう思ってくれたことを、私は本当に嬉しいと思うし、誇りにも思う。
 私はまだ結婚相手を選ばない。だから、文彦君も自分の未来を、私との結婚なんて条件付けないで欲しい。継ぐかどうか何て、結婚とは別問題にして決めればいいじゃないか。
 それに文彦君には……、今は後継者候補としてだけでなく、人間としても成長していって欲しい。結婚とか、後継者とか、そういうことは、私たちが、もう少し大人になってから決めようって」
「随分と余裕だな、昔と比べると……」
「ああ、未来のイケメンを予約しておく折角のチャンスなんだけどな……。でも、後で『急いで選んで損した』みたいに言われるのって嫌じゃんか!」
 文枝は私の言葉を聞いて笑った。私も別に可笑しくないのだが、つられて笑っちまった。
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