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文字数 1,038文字

 私は翌日こそ学校をさぼったものの、明後日からは学校に通い出した。

 あれ以来、何か、もう人に食ってかかることも出来なくなっていた。だから、最近は、マスクをしないで大声で話す人にも注意しないし、人が何か悪さをしても、見て見ぬふりをする様にしている。
 帰りに文枝ともんじゃを食べることもなくなったし、授業中に居眠りすることもなくなっていた。
 その代わり、帰ってから勉強をする様になって、驚いたことに成績が上がり始めている。まぁ、そんなことは、私にはどうでもいいか……。

 私は、時々、喜左衛門様のことを思い出す。
 そのお姿は、文彦君や修一よりも鮮明に私の記憶に残っている。ま、修一とはずっと会っていないし、連絡も全くないしな。
 それにしても、あの狸世界が実在の世界だったのか? それとも私の単なる夢だったのか? 今でも、その結論は出ていない。
 それを耀子さんに聞くことは、私には出来なかったし、仮に訊いても、はぐらかされるだけで、ちゃんと彼女は答えてくれないだろう。
 いや、ちゃんと答えてくれたとしても、私はそれを信じることが出来ないから、結局答えて貰えないのと同じなんだ。だから……、訊ねようとは思わない。

 もし、実在していたとしたら……。
 狸小路の裏長屋は、まだあるのだろうか? お熊さんは相変わらず、近所中の世話を焼いているのだろうか?
 禿狸一家の連中は相変わらず悪さをしているのだろうか? それとも、喧嘩相手がいなくなったので、馬鹿々々しくなって、もう大人しくなったのだろうか?
 山橘さんは長屋に来なくなり、どこかの御屋敷にお籠りになられたのだろうか? やっぱり、私がいなくなって、ほっとしているのだろうか?
 喜左衛門様はどうなされただろう? 彼は本当に若様だったのだろうか? だとしたら、お城に戻られたのだろうか? 奥方様を貰われただろうか? そして、私のことを、覚えていてくれてるだろうか?

 私は今、授業で黒板の内容をノートに写している。来週には、期末試験が始まる。余分なことを考えている時間なんて、もう私にはないのだ。


 ン、授業中だってのに、耀子さんからショートメールだ。全く……。
「駅前で事故があって、救護の人出が足りないの、直ぐ来て頂戴」って、私は高校生で今授業中なんだぞ! もう私だって子供じゃないんだ。いちいち……。
 ン、また来た。
「あんたが、大人になるなんて、百年早いわ!」って、前と言っていることが全く違うじゃねぇか!
 仕方ない! 次の英語はバッくれるか!
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