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文字数 737文字

 お侍様に連れて来られたのは、竹藪で隠された、狭い入口の料亭の様な場所。そこで、私たちは二階の部屋へと通された。
 座敷と衝立、そして窓しかない殺風景な部屋だ。その部屋の池の見える窓に、お侍様は立膝ついて腰掛けた。私は……、座敷の中央で正座をすることにする。
「ここは?」
「出会い茶屋だよ」
「出会い茶屋?」
「男と女が逢引きする場所だ」
 良く見ると、衝立の向こうに蒲団が敷かれて、肘掛けみたいな枕が、そこに置かれている。
 私は騙されたと思った。この男、最初からそう言う魂胆だったのか!
 襟元と裾を両手で掴み、身構えた私を横目で見て、お侍はボソリと答えた。
「安心せい。其方(そなた)に何かしようと言う気などはない」
「じゃ、何で?」
「本当に何も知らぬようじゃのう。男と女が一緒に飯を食えるなど、この様な場所以外にある訳がなかろう。ここで仕出しでも頼めば、決して安くはないが、上手い食事にはありつける」
 なるほど、そういう訳か。そういや、確かに時代劇で、男女が一緒に飯を食っている場面ってあまり無いよな。狸世界でも、大人の男女が一緒にいるのは、「席を同じゅうせず」って奴で、不自然な行為なのか。
「して、お女中、其方(そなた)、何を企んでおるのじゃ?」
「企んでいる?」
其方(そなた)の様な美しい女性(にょしょう)が、大金を持って儂に助けを求めて近づいてくる。これを疑わぬ方が不思議であろう? あの掏摸も、お女中の仲間であったのかな?」
 ま、確かに、私もさっき、このお侍と掏摸はグルで、私をここに連れ込む作戦だったのかと思ったもんな。しかし、また「美しい女性(にょしょう)」だなんて、二度も言いやがって、こっちが恥ずかしいじゃないか!
 でも、私って、もしかすると、人間世界では不細工だけど、狸世界では美人だったりして……。ハハ、それは無いか……。
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