(3)

文字数 964文字

 私は安心したってのか、呆れたってのか、少し拍子抜けした。そういやぁ忘れていたが、今日は文枝の方から誘って来たんだっけな。
「まぁいいや、で話があるって、何なんだよ?」
「あ~晶、こんどの何とかの日って暇だろ? 彼氏いないし」
「本当、こいつ首絞めたろか! そんな事言いにきたのか、手前ぇは?」
「まぁ怒るなって。悪いんだが、お前映画見に行ってくんない?」
「はぁ? そんな金無いぞ!」
「金なら出すって。チケットはこれだ」
 文枝はそう云って、鞄の中から今人気のアニメ映画のチケットを取り出して、私の目の前でフリフリと振って見せる。そりゃ私だって、タダなら見に行きたいぜ。
「ほお~、どうした風の吹き回しだ?」
「デートして欲しいんだよ。あたしの弟と」
「はぁ~~? 弟さんが映画見たいってんなら、お前が付き合ってやればいいじゃんかよ! お前が都合が悪いってんなら、義理のお兄ちゃんにでも頼んだらいいだろ!」
 少し惜しいが、それがスジってもんだ。そもそも、何で他人の私に、そんな事頼むんだ? だが、文枝はニヤニヤ気色の悪い笑いを浮かべながら人差し指を振っている。
「違うんだな~。映画を見せたいんじゃなくて、映画は餌なんだ。これで外に連れ出した文彦に、お前から話しをして欲しいんだよ」
 困惑する私に、文枝は変な依頼について説明してきた。
「あたしん家って、ちょっと特殊でさ、ある種の非公式な集団なんだけどさ、親父がそのリーダーなんだよ……」
「げっ! それって反社会的勢力ってやつか?」
「お前、反社会的って言うけどな、奴らが遣ってることは国なんかと一緒なんだぜ。いいか、国は税金と称して上がりの何割かを掠め散るんだ。そして、其れを払った国民には、悪党が悪さしても警察ってガードマンを使って守ってやるんだ」
「しかしな……、そいつらにも所場代払ったら二重払いじゃねぇか」
「二重払いってんなら、市町村ってのがあんだろ。そいつらだって、がっぽりと掠め取ってんだぜ、おまけに住んでる人間には、所場代として、住民税ってやつまで奪い取るんだ」
 しかし、こいつは政府や地方自治体を、反社会勢力の一つにしちまいやがった。
「ま、いいや。あたしが話したいのは、それじゃない。あたしゃリーダー継ぎたくないから、文彦が継ぐように説得して欲しいって事なんだ」
「な、何だって~~?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み