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文字数 977文字

 文彦君の一件以来、修一も遠慮しているのかメールをして来なくなった。面倒はなくなったのだが、寂しくないと言えば嘘になる。
 文枝は相変わらずなのだが、文彦君が特別私にアプローチをしてくることは無かった。
 私はそういう訳で、普通の女子高生として学校と家の往復を続けていた。まぁ私にとっては、まだまだ学校は無意味な昼寝の場であったし、家は食事と漫画と寝る為だけの場所だったのだが……。
 クラスの馬鹿どもが、私を「まるくなった」とか言っていたが、確かに気に入らない奴に、すぐ食って掛かることは控える様にしている。それでも迷惑している人を助けようと腰を上げることもあるのだが、そういう時に限って何故か、先に誰かが助け船を出して私の出る幕はなくなっているのだった。
 そう言えば、私のことを綽名で揶揄(からか)っていた奴らも、綽名を()めた訳ではないが、それで揶揄(からか)うことは無くなっていた。あいつらも、あいつらなりに大人になったのだろう。
 そうなると、私も単なる勉強の出来ない駄目高校生でしかない。でも、私は普通の女子高生でいい。例の綽名も恥ずかしいけど、男前女子ってのだけは勘弁して欲しい。あまりにも、私の実体と違い過ぎって、それを聞くと自己嫌悪になっちまう。
 ま、普通の女子高生になるには、もう少し勉強しなきゃなんないだろうけどな。

 そう言やぁ、変わんないものもある。今、夕飯を食っている家の両親だ。
「おう晶、お前このごろ学校から呼び出し食ってねぇが、学校行ってんのか?」
 お前は馬鹿か? 学校行ってなきゃ、呼び出し食うだろうが……。
「お父さん、晶だって少しはまともになったんですよ。この間も勉強していたし」
「なんだ? またラブレターでも書くのに漢字が分かんないから、小学生のうんこドリルでもやってたんじゃないか?」
 こいつ、一辺蹴り倒してやろうか! それに、お袋もお袋だ。「少しはまとも」って、私を何だと思ってやがるんだ?
 私はこんな成長の全くない親なんか無視して、黙々と飯を食っている。
 しかし本当、こいつら分かっていない……。私は2人のイケメンから言い寄られる、モテモテ女なんだぞ……って、信じない方が普通か……。私だって信じられない。でも、それが嘘であったとしても、こんな親でも多少のことは許すって言う、寛容な気持ちを私に届けてくれているのだけは、間違いないことだった。
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