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文字数 998文字

 私は藻掻いたんだけど、喜左衛門様に身体の自由を奪われ、帯を解かれ、彼のなすがままになってしまった。
 望んでいた訳で無いのは間違いないのだけれど、実際、本気で抵抗していたのか自分でも自信はない。
 途中から、もうどうにでもなれって気になったのも確かだし、最後には身体の力の抜いて彼を受け入れたのも真実だ。そして、雌狸の本能なのか、彼を受け入れる身体の準備も出来ていた。
 これが人間世界だったら、私は彼を訴えたのだろうか?
 彼を受け入れ、彼に抱かれることを許したのは間違いなく私の意志だ。それに、彼が別の家に住むと言っていたのに、同居することを望んだのも私だったし、彼の脇に床を敷いて彼に寝姿を見せ続けていたのも私だ。私が彼を誘惑していないとは、私だって言うことは出来やしない。
 でも、そんなこと、考える必要も無い。この狸世界では強姦罪なんて無い様なもんだ。やられちまったら、女はやられ損。後は、喜左衛門様が私をどう扱うかしかない。
 このまま私など、知らぬ存ぜぬで通せば通らないことはない。面倒が嫌なら、相応の手切れ金を出して、私をどこかに無理矢理嫁がせることだって出来るだろう。だが……。
 だけど、今、隣で横になって、まだ裸のままの私の髪の毛を撫でている。そんな喜左衛門様が、側室であろうと、私を捨てないでずっと一緒に居てくれる。そんな望みも、私は捨てることなど出来はしなかった。
 いや、喜左衛門様は、きっと私を側室に迎えてくださる。
 そういう意味では、この長屋でやることも無く、山橘さんと過ごした時間ってのは、お大名の奥方様とかが、何もすることなく過ごしていく大奥での日々そのものだったのじゃ無いだろうか? 喜左衛門様は、私にその様な生活を体験学習させる為、私に山橘さんを付けて、堅苦しい生活ってものを味合わせていたのじゃないだろうか?
 まぁ、幸せには違いないんだろうけど……、そんな風になったら、退屈するだろうなぁ……。
 もう、禿狸一家と喧嘩なんかする訳には行かないよな。あの馬鹿狸どもとの喧嘩も楽しかったなぁ。あれで結構面白い奴らだったし……。

 修一、ご免な。未来の再デートは無しだ。文彦君、元気で暮らせよ。本気で嬉しかったぞ。でも、君なら本当に素敵な女性と巡り合うことが出来る。少なくとも、もう少し女の子らしい女の子がな。

 私は狸世界で生きることにするわ。そう言う運命だったみたいだし……。
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