(2)

文字数 807文字

「おい、手前ぇ、私をどうしようってんだ!」
 私は頭の中のジジイに訊いてみた。
「頭の悪い奴じゃのう? 先程からお前さんに説明しておるだろうが。お前さんに狸になって貰って、この世界で一生暮らして貰おうと思ってるとな」
「ふざけるな!」
「ふざけてなど居らぬよ。それとも、お前は狸になるのは、嫌だと言うのかな?」
「当り前だ!」
「そうか、そうか……」
 このリーダージジイは、また私の頭の中で含み笑いしやがった。本当に腹の立つ奴だ。しかし、それにしても、これは本当に夢なんだろうな? 現実だとしたら大変だぜ。
 その時、今度は私の腹から音が聞こえてくる。だが、これは話声ではない。私の腸を空気が移動する音、つまり私の腹の虫だ。
「そういや、腹減ったなぁ……」
 そう言ってから、私は重大な問題に気が付いた。
 もし、仮に、これが夢で無いとしてだ、私は何を食べたらいいんだ? この世界に私ン家がある訳ないし、親父もお袋もいる訳がない。飯なんか、誰にも作って貰えないぞ!
 そもそも帰る家も無い。私はどこに寝泊まりすればいいんだ?
「とりあえず、空腹じゃ考えもまとまらない。どこかで飯を食おう! 狸の世界だって、飯屋くらいあるだろう。まず飯だ!」
 私は新たな問題に気付いた。私は金を持っていない……。
 確かに小銭位はあるけど、ありゃ人間の金だ。おそらく、この世界では使えないだろうな。ってことは、私は一文無しかよ……。
 私は何となく、懐をまさぐった。すると何か、巻かれた布の様な物がある。私は期待に心臓を高鳴らせて、その布を開いて行った。
「あった!」
 そこには、金色の円盤とか変な五円玉みたいのが結構入っている。こいつは狸世界のお金に違いない。
 私は思わず、例のジジイに感謝しちまったぜ。少なくとも奴は一文無しで私を放り出す真似はしなかった様だ。それに私に懐を探させたのも、ジジイのやらせたことかも知れないな。ま、あいつ、意外といい奴かも……。
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