第24話「吹き荒れるピンクの嵐」(2)
文字数 2,476文字
そして、魔族、人類、両方の、三チームの、「教員混交二人三脚」が始まった。
「先生、俺でいいんですか?」
「かまわないわ。本気を出しなさい」
A組は、ベリアル族の男子生徒と、ステラ・リアが。
「天よ照覧あれ! 今こそ、愛の勝利を見せる時!」
「すみません。この距離で怒鳴られるとすごい耳が痛いんで、静かにしてください」
ザハガードは、シューペリオンとハインツが。
「俺、基本的に肉体労働苦手なんだよ……」
「今さら言っても始まりません、覚悟決めたんでしょ!」
そしてB組は、クトゥーとライムが出場する。
「それではスタート!」
号令を発したのは、最後の競技ということでラーヴェルトが行った。
その声を合図に、三組同時に走り出す。
ルールは単純、一直線のコースを、足首を縛った二人一組の選手が走り、一番最初にゴールテープを切った者が勝者。
今回も、そのルールは変わらない。
だがしかし、このコースには、クトゥー自慢のトラップが、まだ残っていた。
三チームが走り出すと同時に、お約束となった爆発が巻き起こる。
「ふん! こんなもの!」
髪先を焦がしながらも、自慢の耐久力で乗り越えていくステラ・リアのA組チーム。
「ちぃ! 負けるものか!!」
「金にあかして買っといてよかったですね、この鎧」
地水火風の魔鉱石を埋め込んだ、聖騎士の鎧をもとったザハガードチーム。
同属性の干渉を防ぐ効果を持つゆえに、爆発も毒も効かず、鎧自体もミスリル製であるため、防御力は魔族にも引けを取らない。
「あれ……?」
そしえクトゥーらB組チームはというと……コースを走っているだけで、何も起こらなかった。
「どうなっているんですかこれ?」
不思議そうな顔のライムに、クトゥーは答える。
「冷静に考えろ。どこの世界に自分の罠に引っかかるバカが居る?」
走っているのもクトゥーならば、そのコースにトラップを仕掛けたのもクトゥーである。
「そもそも、こんなこともあろうかと、コースに仕掛けられた全ての罠は、俺には反応しないようにできている」
「さすがこすっからさなら天下一品ですね」
「褒めるな褒めるな」
「褒められたと認識しちゃうんですね……」
呆れるライム、その足がコースの一角を踏んだ瞬間、その部分に光が灯った。
「ん………、いかん!」
とっさにライムを抱え、クトゥーは横に飛ぶ。
「え、えええ!?」
次の瞬間、彼女が足を踏み入れた部分から、先の尖った巨大な丸太が現れた。
「な、なんで!?」
「しまった……トラップに引っかからないのは、俺だけだった!」
「基本的に詰めが甘い!」
クトゥーの仕掛けたトラップは、生物の持つ「気」に反応して発動する。
そこに予め、自分の「気」のパターンを覚えさせ、それは感知しないようにしていたのだ。
「二人三脚では逃げられん!! くそう!」
「先生ちょっと退いてください! 縄が絡んでいたいです!」
倒れたままの二人、足首を縄で結んでいるため、立ち上がるのも難い。
そして、そこを狙っていた者たちが動き出す。
「隙ありぃ!!」
「むっ!?」
襲い掛かってきたのは、ザハガードの王子、シューペリオンであった。
「我が愛刀、クルセイドスターの錆にしてくれん!」
「グランツバイザーじゃありませんでしたっけ、その剣」
ハインツの淡々としたツッコミも無視して、剣を振り回し襲いかかってくる。
「テメェ、あからさまな走行妨害だろ! 反則だ反則!」
「黙れい! 聞いたぞ、このトラップ貴様には反応しないそうじゃないか! その分のハンデだ!」
「ちっ、意外に耳いいなコイツ……」
クトゥーは魔導師であるため、本人も言っているように、体を使うのは不得手である。
だが幸いなことに、シューペリオンは見かけの割には剣の腕はイマイチであった。
「やるな貴様! ことごとく我が剣閃を見切るとは!」
「見切ってねぇよ、オマエが当てられてねぇだけだ!」
というか、力任せに振り回しているだけであった。
「自慢ではありませんが、ウチの殿下は見かけだけですよ」
「みたいですね」
辛辣に告げるハインツに、同意を返すライム。
「ええい! おとなしく斬られろ! 不敬であるぞ!」
「不敬ってなんだそりゃ? オマエの国じゃ、オマエが命じりゃ黙って斬られんのか!」
頓珍漢な物言いをするシューペリオンに怒鳴りつけるが、返ってきたのは、想像を上回る返答であった。
「黙って斬られるぞ」
「なに?」
「私はザハガードの王となる男だぞ! 国にあるものは全て私のもの! 民の命も同じ!」
「こいつは……」
ただのバカかと思ったら、笑えないバカだとわかり、クトゥーは言葉を失う。
(あのバカ、ホント……男運悪いな……)
幼馴染の褐色の女魔導師、ガルディナの顔が浮かぶ。
こんなバカの好きにさせている国である。
父親である王も、底の知れたものであろう。
(もしもコイツになんかしたら、アイツが迷惑被るかも知れねぇな……)
仲は悪いが、十年来の腐れ縁である。
権力に溺れたバカ王子に、ひどい目に遭わされる姿を思うと、さすがに、攻撃魔法を繰り出すのは躊躇する。
「ああもう、めんどくせぇな!」
幸い、ただでさえ動きの自由が制限される二人三脚状態で、下手くそな剣を振り回しているため、無理しなくても刃は当たらない。
「ここは逃げるが勝ちか……委員長、右上五十センチほど上をぶっ叩け!」
「え、あ、はい!」
クトゥーの指示に従い、言われた個所の地面を叩く。
途端に、トラップが発動し、地面から丸太の杭が繰り出された。
「おわぁ!?」
うろたえるシューペリオン。バランスを崩してその場に倒れる。
「よし今だ、走るぞ!」
ライムを立ち上がらせると、クトゥーは一目散に駆け出す。
名目はどうあれ、彼らが自分たちに攻撃できるのは、「競技中のどさくさに紛れて」、である。ゴールさえしてしまえば、もう何も出来ない。
それに――
「先生、俺でいいんですか?」
「かまわないわ。本気を出しなさい」
A組は、ベリアル族の男子生徒と、ステラ・リアが。
「天よ照覧あれ! 今こそ、愛の勝利を見せる時!」
「すみません。この距離で怒鳴られるとすごい耳が痛いんで、静かにしてください」
ザハガードは、シューペリオンとハインツが。
「俺、基本的に肉体労働苦手なんだよ……」
「今さら言っても始まりません、覚悟決めたんでしょ!」
そしてB組は、クトゥーとライムが出場する。
「それではスタート!」
号令を発したのは、最後の競技ということでラーヴェルトが行った。
その声を合図に、三組同時に走り出す。
ルールは単純、一直線のコースを、足首を縛った二人一組の選手が走り、一番最初にゴールテープを切った者が勝者。
今回も、そのルールは変わらない。
だがしかし、このコースには、クトゥー自慢のトラップが、まだ残っていた。
三チームが走り出すと同時に、お約束となった爆発が巻き起こる。
「ふん! こんなもの!」
髪先を焦がしながらも、自慢の耐久力で乗り越えていくステラ・リアのA組チーム。
「ちぃ! 負けるものか!!」
「金にあかして買っといてよかったですね、この鎧」
地水火風の魔鉱石を埋め込んだ、聖騎士の鎧をもとったザハガードチーム。
同属性の干渉を防ぐ効果を持つゆえに、爆発も毒も効かず、鎧自体もミスリル製であるため、防御力は魔族にも引けを取らない。
「あれ……?」
そしえクトゥーらB組チームはというと……コースを走っているだけで、何も起こらなかった。
「どうなっているんですかこれ?」
不思議そうな顔のライムに、クトゥーは答える。
「冷静に考えろ。どこの世界に自分の罠に引っかかるバカが居る?」
走っているのもクトゥーならば、そのコースにトラップを仕掛けたのもクトゥーである。
「そもそも、こんなこともあろうかと、コースに仕掛けられた全ての罠は、俺には反応しないようにできている」
「さすがこすっからさなら天下一品ですね」
「褒めるな褒めるな」
「褒められたと認識しちゃうんですね……」
呆れるライム、その足がコースの一角を踏んだ瞬間、その部分に光が灯った。
「ん………、いかん!」
とっさにライムを抱え、クトゥーは横に飛ぶ。
「え、えええ!?」
次の瞬間、彼女が足を踏み入れた部分から、先の尖った巨大な丸太が現れた。
「な、なんで!?」
「しまった……トラップに引っかからないのは、俺だけだった!」
「基本的に詰めが甘い!」
クトゥーの仕掛けたトラップは、生物の持つ「気」に反応して発動する。
そこに予め、自分の「気」のパターンを覚えさせ、それは感知しないようにしていたのだ。
「二人三脚では逃げられん!! くそう!」
「先生ちょっと退いてください! 縄が絡んでいたいです!」
倒れたままの二人、足首を縄で結んでいるため、立ち上がるのも難い。
そして、そこを狙っていた者たちが動き出す。
「隙ありぃ!!」
「むっ!?」
襲い掛かってきたのは、ザハガードの王子、シューペリオンであった。
「我が愛刀、クルセイドスターの錆にしてくれん!」
「グランツバイザーじゃありませんでしたっけ、その剣」
ハインツの淡々としたツッコミも無視して、剣を振り回し襲いかかってくる。
「テメェ、あからさまな走行妨害だろ! 反則だ反則!」
「黙れい! 聞いたぞ、このトラップ貴様には反応しないそうじゃないか! その分のハンデだ!」
「ちっ、意外に耳いいなコイツ……」
クトゥーは魔導師であるため、本人も言っているように、体を使うのは不得手である。
だが幸いなことに、シューペリオンは見かけの割には剣の腕はイマイチであった。
「やるな貴様! ことごとく我が剣閃を見切るとは!」
「見切ってねぇよ、オマエが当てられてねぇだけだ!」
というか、力任せに振り回しているだけであった。
「自慢ではありませんが、ウチの殿下は見かけだけですよ」
「みたいですね」
辛辣に告げるハインツに、同意を返すライム。
「ええい! おとなしく斬られろ! 不敬であるぞ!」
「不敬ってなんだそりゃ? オマエの国じゃ、オマエが命じりゃ黙って斬られんのか!」
頓珍漢な物言いをするシューペリオンに怒鳴りつけるが、返ってきたのは、想像を上回る返答であった。
「黙って斬られるぞ」
「なに?」
「私はザハガードの王となる男だぞ! 国にあるものは全て私のもの! 民の命も同じ!」
「こいつは……」
ただのバカかと思ったら、笑えないバカだとわかり、クトゥーは言葉を失う。
(あのバカ、ホント……男運悪いな……)
幼馴染の褐色の女魔導師、ガルディナの顔が浮かぶ。
こんなバカの好きにさせている国である。
父親である王も、底の知れたものであろう。
(もしもコイツになんかしたら、アイツが迷惑被るかも知れねぇな……)
仲は悪いが、十年来の腐れ縁である。
権力に溺れたバカ王子に、ひどい目に遭わされる姿を思うと、さすがに、攻撃魔法を繰り出すのは躊躇する。
「ああもう、めんどくせぇな!」
幸い、ただでさえ動きの自由が制限される二人三脚状態で、下手くそな剣を振り回しているため、無理しなくても刃は当たらない。
「ここは逃げるが勝ちか……委員長、右上五十センチほど上をぶっ叩け!」
「え、あ、はい!」
クトゥーの指示に従い、言われた個所の地面を叩く。
途端に、トラップが発動し、地面から丸太の杭が繰り出された。
「おわぁ!?」
うろたえるシューペリオン。バランスを崩してその場に倒れる。
「よし今だ、走るぞ!」
ライムを立ち上がらせると、クトゥーは一目散に駆け出す。
名目はどうあれ、彼らが自分たちに攻撃できるのは、「競技中のどさくさに紛れて」、である。ゴールさえしてしまえば、もう何も出来ない。
それに――