第17話「棒読みのスポーツマンシップ」(4)

文字数 994文字

 そして阿鼻叫喚の巻き起こる運動会が始まった。
「みんな! 気を引き締めてかかりますよ! 油断したら命を落とすと思ってください!」
「う、うおおおおおっ!!」
 ライムを筆頭とし、士気を高めているB組。
「全員、こんなことで負けてはいけないわよ! あの卑怯者に、魔族の意地をお見せなさい!」
「…………………」
 対して、ステラ・リアの激に、A組の生徒たちは意気消沈している。
 無理もない話であった。
 ちょっと本気を出せば、B組の低級魔族ごとき敵ではないと舐めてかかっていた彼ら。
 だが本当の敵は極悪陰険魔導師クトゥーであり、彼のしかけた底意地の悪い洒落にならないトラップを潜り抜けねばならないことを知っては、そこまでして戦う気力も意欲も、彼らには残っていなかった。
「くっ………これだから!」
 苛立つステラ・リア。
 だがここで退くことは、彼女のプライドが許さない。
(何度も使うのは危険だけど……仕方ない!)
 だから彼女は、またしても、「奥の手」を使った。
「うおおおおおおおおっ!!」
 数瞬の後、A組の生徒たちの、獣のような咆哮が響く。
 それまでやる気のなかった彼ら彼女らが、目の色を変えていた。
「さぁ行きなさい、あなたたち!」
「おうっ!!」
 死すら怖れぬバーバリアンの如く、A組の生徒たちは進む。
「あれは……あの時の叫びはあいつらだったのか」
 訝しむようにつぶやくクトゥー。
 運動会の設営準備中聞こえてきた、獣のような怒鳴り声。
 それは、ステラ・リアによって起こされたものだった。
「なにをしたんでしょうね、ステラ先生……ううっ?」
「どうした?」 
 クトゥーの隣で、同じく不思議そうな顔をしていたラーヴェルトが、突如呻くように体を折る。
「す、すいません……なんか、その、ちょっと、気持ち悪くなっちゃって……」
「む?」
 青い顔……と、火照ったような赤い顔を交互に浮かべるラーヴェルト。
「アイツ……なんだ……?」
 口元に手を当て、クトゥーは思案する。
 一瞬、わずかに一瞬だが、奇妙な気配を感じた。
「もしかして……」
 その気配に、思い当たるものがあったが、現状では特にそれを追求する意味はないと、ほうっておくことにした。
(おそらくアイツ自身も、効果を限定的なものに絞っているようだしな)
 それよりも、試合の観戦を優先することとした。
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