第3話「ウンドウカイのおしらせ」(2)

文字数 8,077文字

 魔王立学校ヨルムンガルド――生徒がいるなら教師もいる。

 生徒が魔族ならば、基本的に教師も魔族である。

 そんな魔族な教員の場所、職員室――

「あのニンゲンはどこですか!!」

 職員室にて、怒声を上げる女の声。

 クトゥーらB組の隣、A組の担任教員、ステラ・リアであった。

 午前の授業で、突如起こった爆発と轟音。

 それによって自分のクラスの授業が中断したため、その文句を言うために現れたのだ。

「ニンゲン………クトゥー先生ですか?」

 応えたのは、自分の机で、次の授業の準備をしつつ、梅昆布茶をすすっていた、音楽教ラーヴェルトである。

「他にいないでしょう、この学園に……いえ、この魔族領に」

「まぁそりゃそうですが……」

 応えながら、ラーヴェルトは心中でつぶやく。

(下手な魔族よりも魔族らしいですけどね)

「なによ、変な顔して」

「いえ、別に」

 訝しむステラに、ラーヴェルトは曖昧な表情で返す。

 ラーヴェルトは、ヨルムンガルドの教員たちの中で、最もクトゥーと親しい。

 職員室のデスクも隣なら、学園内敷地にある職員寮も隣の部屋である。

「またクトゥー先生がなにかしたんですか……この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ございません」

 深々と謝るラーヴェルト。

「ちょ……なんでいきなりあなたが謝るのよ?」

「いやもう、そうした方が色々話が早いんですよ」

 下手にクトゥーに近い場所にいるために、ラーヴェルトは巻き込まれ、様々な迷惑を被っている。

 具体的に言えば、なんらかの爆発事故が起これば、大概その現場には彼が黒焦げで倒れている有様だ。

「今日は授業の準備があったので、助かりましたが……なんか爆発音しましたよね、それですか?」

「そ、そうよ……」

「この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ございません……」

「だからなんで謝るの!?」

 クトゥーの犯した事件事故の類、その後始末もいつもラーヴェルトに押し付けられる。

 音楽教員のはずなのに、この数ヶ月、壊された校舎の修繕作業で、大工道具が手放せなくなった程である。

「あなたに謝られてもしょうがないわ! あのニンゲンはどこ!」

「さぁて、クトゥー先生は職員室にいるほうが珍しいので……」

 ラーヴェルトの隣、クトゥーのデスクには、軽くホコリが積もっている。

 日常において、ほとんど彼がここにいないのを如実に物語っていた。

「そういえば、職員室で見かけたこと、ほとんどないわね……」

 今更ながら、思い出すステラ・リア。

 彼女は人類種族が嫌いである。

 なぜ、この魔族の学園に「ニンゲン」がいるのかと、日々苛立っているくらいである。

 なるべく顔も目も合わせないようにし、言葉も交わさず、存在を認識することも控えていた。それが故に、気づくのも遅れてしまった。

「なんでいないのよ、あのニンゲン」

 職員室とは、ただの教師の控室ではない。

 次の授業、さらにその次の授業、その次の次の授業の予定と計画を立て、その下準備をするための場所である。

「あの人、行き当たりばったりで授業してますから」

 だが、そもそもそんな授業計画を立てないクトゥーにとって、職員室など、無理して腰を落ち着ける場所ではないのだろう。

「あーもう、なら呼び出しなさい! 話が――ぐべっ!?」

 さらに怒りの声をあげようとしたステラ・リアだったが、その後頭部を丸太が直撃する。

「ん、なんかぶつかったぞ」

「ちゃんと前見てないからですよ!」

 丸太を運んでいたのはクトゥー、そして委員長のライムと、生徒のロッテであった。

「クトゥー先生……なにしてんですか?」

 呆れた顔で、ラーヴェルトが尋ねる。

「オマエは、俺が盆踊りを踊っているように見えるか?」

「いえ、丸太を運んでいるように見えます」

「なら見たとおりだ。丸太運んでんだよ」

「はぁ」

 いちいちめんどくさい返し方をするクトゥーに、人のいいラーヴェルトは、改めて問い直す。

「なんで丸太を職員室に運び込んでいるんですか?」

「それはだなぁ。運動会をしようと思ってな」

「ウンドーカイ?」

 クトゥーの口にした耳慣れない単語に、ラーヴェルトは首をひねる。

「ああ、まぁ知らんでしょうがない。人類種族の文化だからな」

 魔族は、人類種族を凌駕する生命力と戦闘力を持つが、反して「文化力」とも言えるものに乏しい。

 なにせ、このヨルムンガルドでさえ、人類種族の「学校」を模したものなのだから。

「正直ヒマなんだよ、毎日毎日授業ばっかで、メリとハリが足りねぇ」

 そもそもその授業自体まともにやっていないクトゥーが言う。

「つまり……イベントということですか?」

「まぁそうだな」

「意外ですね」

 クトゥーは、学生時代、暗黒を通り越して、生き地獄のような陰湿な日々を送っていた。

 どれくらい陰湿かというと、普通の人間なら年に一回あるかないかのレベルの、「笑えない話」が、一日三回三百六十五日発生しているような感じだ。

「クトゥー先生、そういうイベント大っ嫌いだと思ってました」

 事実彼は、数ヶ月前、この日告白すると両思いになれるという、「恋人の日」とされる聖アマンダの日をぶっ潰そうと、校内で一番告白されそうな美男子なラーヴェルトを禁忌の邪法で死にもまさる苦しみを与えようとしたほどである。

「たしかに俺は、学校で開催されるこのテのイベントは大嫌いだ……」

 深く、感慨深げにうつむくクトゥー。

「あれは……俺が中1のことだった」

「また始まりましたね」

 クトゥーの悲しき過去の思い出ばなしの始まりであった。

「運動会でな……騎馬戦ってわかるか?」

 騎馬が三人、騎手が一人の四人一組で行う競技である。

「俺、騎手になったんだよな。比較的体重軽いし」

 騎手は頭に鉢巻を巻いて、敵の騎馬と奪い合う。

「んで、騎馬になった連中、三人ともあからさまに嫌な顔してんなぁ~……とは思ったんだが、運動会当日……そいつら全員、仮病ぶっこいて休みやがってな……」

「うわぁ」

 運動会の思い出づくりより、「クトゥーの騎馬にならないですむ」方を選んだのであった。

「しょうがないから俺は、一人で騎馬の中に突撃して、なんかわからんうちに鉢巻取られて、敵か味方かもしくは両方共に踏みつけにされた」

「ホント……呪われてますね……」

 暗黒式魔導の使い手たるクトゥーは、無条件で理由なしに、「人間に嫌われる」という宿命を背負っている。

 これに抗えるのは、よほど強い「陽」の気を持つ者か、魔導に長けた者くらい。

 少なくとも、どちらも世間の中学校ではお目にかかりにくい存在である。

「他にも色々とあったよ。パン食い競走で食ったパンで食中毒起こしたり、大たまごろがしで玉が爆発したり」

「すいません。詳しくないからわからないんですが、その玉って爆発するものなんですか!?」

「それは俺にもわからねぇ」

 人生全てがエクストラモードな不運を呼び込むクトゥーである。

 爆発しないものが爆発してもおかしくはない。

「そんなクトゥー先生が、なんでまた運動会をやろうなんて思ったんですか?」

 普通に考えれば、「運動会」の「う」の字すら見たくないはずである。

「そりゃオメェ」

 ラーヴェルトの問に、クトゥーは答える。

「自分が出るんじゃなくて見る側なんだから、何が起ころうが関係ないだろ」

「そういうもんですか?」

「自分が苦しむのなら地獄だが、人が苦しむさまを見るのは楽しいだろう?」

「同意を求めないでください」

 下手な魔族よりも魔族的な思考を持つクトゥーに、ラーヴェルトは呆れる。

「と、いうわけで、その準備をしているんだ」

 いいながら、クトゥーは床に丸太を置いた。

「ウンドウカイって、そういうものを使うんですか?」

「ふふふ……まぁ見ていろ。阿鼻叫喚にして、抱腹絶倒な一日をプロデュースしてやる」

 本来なら二つ並ぶことのない四文字熟語を挙げながら、クトゥーはほくそ笑んだ。

「それでだ。運動会といえば、校内全員でやるものだから、A組にも参加を促したいところなんだが……A組の担任はどこだ?」

 むぎゅっと、足元に倒れているステラ・リアを踏んづけるクトゥー。

「先生……それがA組の担任です……」

「おお、気づかんかった。なんだこんなところで寝ているなんて、太平楽な教師だな」

 人を踏みつけておいてあんまいな物言いであった。

「あの、先生……もうちょっと言い方が……」

 ロッテと一緒に丸太運びを手伝い――もとい手伝わされていたライムは、困ったような顔で言うと、ステラ・リアに近づく。

「えっと……ステラ先生? 大丈夫ですか?」

 ステラ・リアも魔族である。

 しかも高位魔族のA組の担任だから、彼女も相応の上位に位置する。

 丸太で後頭部どつかれた程度では、死にはしない。

 死にはしないがそれなりに痛い。

「よくもやってくれたわねニンゲン!!」

 器用なことに、気絶しながらもクトゥーの傲慢な物言いを聞いていたのか、激怒しつつ立ち上がる。

「なに怒ってるんだこの女?」

「だから先生……わたしたち、ステラ先生に丸太ぶつけちゃったみたいなんですよ」

 未だ自分が何をやったかわかっていなクトゥーに、ライムが説明した。

「ああ、そういうことか……そりゃあ―――」

 この時、クトゥーは、素直にステラ・リアに謝ろうとした。

 彼にも、分かり辛いが常識くらいは存在する。

 故意でないといえど、過失でも後頭部ぶっ叩いてしまったのなら、口だけでも謝罪する程度の良識はある。

「近づかないで、ニンゲン!」

 しかし、クトゥーが近づき、手を伸ばそうとしたところで、ステラ・リアは弾けるように後ずさった。

「私に触らないで」

 それは激しい嫌悪の視線であった。

 わずかでも自分の身に触れられたくないという意志が、これでもかと込められていた。

「ふむ……」

 それを向けられてクトゥーはやや戸惑ったような顔をする。

 彼にしては珍しいが、しかしこれが常人ならば、過剰な敵意の反発に、却って自分が不愉快な気分になり、反論の一つも叩きつけるところだろう。

「魔王様推薦で赴任したからって、ちょっと調子乗っているんじゃない? あなたが下衆で下等なニンゲンでしかないのよ? 何対等な身分だと思って私に触れようとしているの! 分をわきまえなさい!」

「あー……」

 まくし立てるステラ・リア。

 だが、意外なほどにクトゥーは特に堪えてはいなかった。

 なぜなら彼は、生きとし生ける者に疎まれるサガを背負った暗黒式魔導師。

 なんの前触れもなく石を投げられるくらいなら日常茶飯事な環境で生きてきた。

 謂れのない敵意など、彼にとっては風のそよぐ音に等しい。

「あー、スマン」

 だから、彼が僅かに戸惑ったのは、ただ単に、ここ数ヶ月、彼の「闇」の力の影響を受けない魔族たちの中で暮らしてきて、その感覚から遠ざかっていたので、ちょっと反応が遅れた。ただそれだけのことである。

 だからこそ、言われても、普通に謝ることができた――が。

「なに謝ってんですか!」

 それを見逃せないとばかりに、声を上げる者がいた。

「どうした委員長、急にテンション高くして」

 声を上げたのは、B組の委員長であるライムであった。

「なんでこんな時に限って変に落ち着いているんですか!」

 言うや、ステラ・リアを睨みつける。

「丸太をぶつけてしまったことは謝罪します。それはこちらに明らかな非がある! でも、クトゥー先生を、人類種族だからと言って罵倒するのは、間違っています!」

 ステラ・リアの言動は、ライムには看過できなかった。

 クトゥー本人の人格にあれこれ言うのならまだ分かる。

 それに関しては彼女も言いたいことが山ほどある。

 しかし、ステラ・リアは、クトゥーを個人としてではなく、人類種族として“ニンゲン”と罵倒した。

「それは相手の人格を否定する行為です。相手に無礼を働かれたからといって、それ以上に無礼を重ねることが高位魔族の作法ですか!」

「作法なんじゃねぇの?」

「先生は黙っててください!」

『ぐはははは、無知で愚かな人間よ』などとは、悪の魔族がよく使う定型文のようなもので、それもまた聞き飽きていたクトゥーは告げるが、ライムに怒られてしまう。

「なによあなた……ニンゲンに肩入れするの? 魔族のプライドはないの?」

 睨みつけるライムを睨み返すステラ・リア。

「そんなのがプライドだなんて、魔族も堕ちたものですね」

 そのステラ・リアに一瞬怯むも、負けじと睨み返すライム。

「ら、ライムちゃん……どしたの……?」

 日頃、常識的で理性的なライムの感情的な振る舞いに、友人のロッテまで戸惑い、止めようとするが、彼女は止まらない。

「だいたい高位魔族とか言ったところで、たまたまそういう種族に生まれたってだけじゃないですか。自分の手柄でもないでしょうに、偉そうに!!」

「なっ………!」

 ライムの言葉に、ステラ・リアの顔に、それまでとはまた異なる、怒りの色が浮かぶ。

「あなたに……なにがわかるの!」

 言い返す――というよりも、怒鳴り返すステラ・リア。

(ふむ?)

 その表情を見て、クトゥーは少し思案する。

 高位魔族揃いのA組の担任であるステラ・リア。

 彼女もまた、高位魔族であろう。

 ゆえに、低級魔族であるライムにケンカを売られたのでプライドが傷ついた……とも言えるが、彼女の顔には、それだけとは言えないものも含まれているように見えた。

(この女……もしかして……)

 口元に手を当て、思案を重ねようとしたところで、クトゥーの肩を、ラーヴェルトとロッテが引っ張った。

「なんだよ?」

 尋ね返すと、二人揃って怯える小動物のような顔になっている。

「二人を止めてくださいよクトゥー先生!」

「ステラ先生も怖いけど、ライムちゃんも怖いよう~」

 魔族といえど、好戦的な者ばかりではない。

 二人は、険悪な空気を漂わせる両者に萎縮しまくっていた。

 特にロッテは、ゾンビ族といえども、生者を襲うどころか、発酵食品の研究開発に勤しみ、ぬか味噌の匂いを漂わせるくらいの平和主義者なのだ。

「ロッテはともかくとして、オマエはそれでいいのか元魔界騎士」

「ベクトルが違うんですよ、緊張感の」

 そしてもう一人の、クトゥーに冷めた目で皮肉られるラーヴェルト。

 彼は元、魔王直属の騎士団にあり、その剣腕は魔族屈指と恐れられた男なのだが、彼の戦歴には「女同士の鍔迫り合い」に対処する経験はなかったようである。

「ったくしょうがねぇなぁ」

 仕方なしと言った具合に、クトゥーは未だ激しい言葉の応酬を続けるライムとステラ・リアに近づく。

「だから、さっきからその口の利き方は何よ! 教師に向かって!」

「教師なら、尊敬されるように振る舞うべきです! 立場を利用しなければ、自分を誇ることもできないんですか!」

「アンタみたいな下級魔族のガキに、なにがわかるのよ!」

「高位魔族なだけの、偉そうな大人よりはマシです!」

 売り言葉に買い言葉、ああいえばこういうな言葉の殴り合い。

「まぁまぁご両人、落ち着こうか?」

 そんな中にクトゥーは介入しようとしたが、

「先生は黙っててください!」

「下がってなさいニンゲン!」

 二人に揃って拒まれた。

「こえーよ」

 後ずさるクトゥー。

「がんばってくださいよクトゥー先生」

「そう言うてもなぁ」

 ラーヴェルトにもう一度アタックしろと押されるが、総じてクトゥーはこの手のケンカの仲裁は苦手であった。

 仲裁するくらいなら、二人まとめてぶっ飛ばすほうが早いのだが、それをやるとおそらく下手すれば年単位で恨まれるのは間違いない。

「よしわかった、運動会でケリを着けよう」

「「は?」」

 いきなりのクトゥーの発言に、ケンカをしていた両人も顔を向ける。

「なんでそうなるのよ私は――」

「なんでそうなるんですか、わたしは――」

 異口同音に抗議をしようとするステラ・リアとライムだったが、それをクトゥーは手をかざし制する。

「争いなんてのは総じて、『どっちの理屈を受け入れるか』だ」

 個人同士の争いから、国家間の戦争に至るまで、争いとはすべからくそれである。

「相互理解なんてできるわけねぇんだよ、ならわかりやすく、敗者は勝者に従うってことにして、ルールの下での争いにしたほうが話は早いだろ」

「いや、それは……」

 一瞬、ライムは言い返そうとするが、その口を止めた。

 クトゥーの言っていることは正論である。

 ステラ・リアは、自分たちB組も、その担任のクトゥーも、「下等種族」と公言してはばからない。

 ライムは、それを「そんなことを言う者こそ下等だ!」と抗議している。

 結局はどちらかが折れるしかない話なのだ。

「それとも、高位の魔族な方々は、勝負から逃げるか?」

「なにを!? そんなこと誰が言いました!」

 プライドを逆なでされ、あっさりと了承するステラ・リア。

「なら決まりだ。運動会は十日後な、準備も必要だから、そっちも人手を貸せよ」

「わかったわよ!あれ……?」

 ここまで来て、ようやく違和感を覚えるステラ・リア。

 双方のいがみ合いに乗じて、「運動開催に協力させる」という、クトゥーの目的だけが完遂されている状況となっていた。

「なんだか……のせられた気がする……」

「「……………」」

 つぶやくステラ・リアに、ロッテもラーヴェルトも何も言わない。

 その通りなだけに、それを指摘すれば、また話がこじれるからだ。

「まぁいいわ……乗せられてあげます。あなたたちに、自分たちの身の程と、立場の違いというものを知ってもらうわ!」

 ステラ・リアがそう言い放ったと同時に、午後の授業の開始を告げるチャイムが鳴る。

「ふん!」

 どれだけ感情が高ぶっていても、仕事はきちんとこなす性分なのか、言うだけ言うと、ステラ・リアは、自分の机の上に置かれた、次の授業に使う教材をひったくるように取ると、そのまま職員室を出ていった。

「ところであの女、なんか俺に用事があったんじゃないのか?」

「あ?」

 クトゥーに言われ、ラーヴェルトは声を上げる。

 別の問題が発生したため、クトゥーに授業中の騒音のことで文句を言うはずが、それを忘れて出ていってしまったのだ。

「どうも猪突猛進的な女みたいだな。俺の小学校の時の担任があんな感じだった」

 高圧的で視野が狭く、自分の常識以外を認めることのできない大人。

 それゆえに他人の異論は、自分の人格を攻撃されたように感じ、激しく拒絶する。

「自分で自分の人生の難易度を勝手に上げるタイプだ」

 その教師は生徒がまだ授業で出ていない方法で問題を解いたら、「それはまだ教えてない」という理由で答案にペケをつけ、一切取り合わなかった。

「先生とはまた違うベクトルでめんどくさい人ですね」

 ふむと口元に手を当てつつ言うラーヴェルトに、クトゥーは答える。

「バカヤロウ、俺はめんどくさいが……あっちは、ただのこじらせだ」
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