第29話「吹き荒れるピンクの嵐」(7)

文字数 877文字

「クトゥー先生―!!」
 ピンクの霧が消えた後、退避していたライムは、目を覚まさないラーヴェルトをロッテに任せ、クトゥーの捜索に向かった。
 校庭のあちこちに、男子生徒たちが倒れている。
 全員目を回して気絶しているが、それまでのような、「正気でない」気配は感じない。
 霧が晴れたと同時に、彼らへの魅了も解けたのだろう。
 その証明は、校庭の中央に倒れている、ステラ・リアの姿が物語っていた。
 黒く広がっていた翼も、変色していた瞳も髪の色ももとに戻り、いつもの姿となって、気絶している。
 ただ、異質な存在が、一人、立っていた。
「誰……?」
 銀色の髪をした青年が、静かにそこに立っていた。
 ライムが近づいたのに気づき、青年は振り返る。
「うわぁ……」
 思わず声を失うほどの美青年であった。
 涼やかで透明感のある瞳は、まるで宝石のようである。
 これであと背中に白い鳥の翼が生えていたならば、天使かと――それも、もっとも神に近い位置に立つことを許された、大天使なのではと思うほどであった。
「あ、あなたは……誰……?」
 呆然としつつ、ライムが問いかけると。
「あ~~~……やっぱこうなっちまったか」
「え?」
 その見たこともない美しい青年は、聞き覚えのある声で、ため息混じりにこぼした。
「え……? えええっ……?」
 そこから導き出される一つの答えが、あまりにも信じられなくて、なにかの間違いであったと思うほど、ライムは何度も声を上げる。
「ったく、言っただろライム。『うろたえるな』って……はぁ」
 美しい銀髪をかきあげながら、青年は言う。
「あの……もしかしてなんですけど、間違いだったら非常に申し訳ないのですけど……」 
 驚きのあまり、上手く口が回らないライム。
 なんとか、青年へ問いかける。
「クトゥー先生ですか?」
「他に誰がいるんだよ」
「うそだああああああああああああっ!!」
 様々な事があった、第一回ヨルムンガルド運動会。
 その中で最も驚愕すべき事態を前にして、ライムはこの日一番の大声を上げたのであった。


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