第15話「棒読みのスポーツマンシップ」(2)
文字数 1,565文字
様々な諸人の思惑が錯綜する中、ついに魔族初の「ウンドウカイ」が開催される運びとなった。
某月吉日、晴れ渡った青天の空に、空砲が打ち上がる。
「なんであんなのもの上げるんだ?」と首をひねる魔族の生徒たちに、クトゥーは「様式美だ」とだけ答える。
そして開会式――
「宣誓―! 我々はすぽーつまんしっぷにのっとり!!」
運動会ではお約束の、選手宣誓が行われる。
「先生……すぽーつまんしっぷってなんですか?」
宣誓を行ったライムが、ふと気づいたように尋ねる。
「気にするな。所詮は口だけの形だけの言葉だ。意味知らんくらいでちょうどいい」
「それいいんですか?」
意味は分からないが、なんとなく蔑ろにしちゃいけない言葉のような気がしたライム。
「まーアレだ、ガキが背伸びして酒や煙草に手を出すなって常識くらいは守れって、目標かな?」
「よくわかりませんが、毒吐いてません?」
運動会を自分から始めた割には、スポーツマンシップなどというものにまったく興味も理解もないクトゥーであった。
「フン……こんなわけの分からない祭りを始めて。これだからニンゲンは……」
「む――!?」
その声を聞いて、途端にライムの顔が険しくなる。
現れたのは、A組担任、ステラ・リアであった。
「低級魔族とニンゲンが、徒党を組んだところで、本物の魔族に勝てるわけがないでしょうに」
クトゥーだけではない、低級であるにもかかわらず、自分たち高位魔族に逆らった愚かなるライムたちを見下し、蔑みに満ちた目であった。
「本物の魔族ってどういうことですか? わたしたちもれっきとした魔族です!」
「あらあら、必死ね」
抗議するライムに、意地悪く嗤うステラ・リア。
「ちょっと見下されたくらいで過敏に反応する……自分に自信のない現れじゃないの?」
「なっ……!」
彼女の物言いに、日頃はどんなときでも、敬語で通しているライムをして、「なんですって!」と怒鳴りつけそうになる。
しかし、そんな彼女を、既の所でクトゥーが止めた。
「そりゃあ、オマエもそうなんじゃねぇのか?」
「―――!?」
特に、嫌味のつもりで言ったわけではないクトゥーの一言。
それが、彼女の心の、痛いところを突いた。
「……本当に、癪に障る!!」
吐き捨てるように言うと、背中を向け、自分のクラスの待機場所に行ってしまった。
「なんなんですか、あの人!」
憤慨するライムにクトゥーが言う。
「お前ねぇ、口ゲンカの時には相手の話を聞くもんじゃねぇぞ」
「え?」
「口ケンカのコツはな、相手の話を聞かず、自分の意見をゴリ押しし、タイミングを見計らい揚げ足を取り、相手が黙ったところで、論破論破―! って叫べばいいんだよ」
「それ……なんの意味もないじゃないですか……」
呆れ果てるライムだったが、クトゥーの顔はふざけてはいなかった。
「そーゆーもんなんだよ、よく『話し合いで解決しましょう』なんて言うが、殴り合うか言葉をぶつけ合うかの違いが有るだけで、やってるこたぁ変わりねぇよ。言ったろ?」
クトゥーが先日言った言葉――「争いなんてものは、結局どっちの理屈を受け入れるか」。
「自分が不満を受け入れたくなければ、相手を押さえ込むしかねぇの……その場もルールも用意してやったんだ。そっちで全力で殴り合え」
そう言うと、クククと笑いながら、クトゥーは職員席に向かっていった。
「むぅ………」
残されたライムは、どこか不満げであった。
クトゥーの言っていることは、間違ってはいないのだろう。
彼なりの経験と体験を元に、行き着いた真実なのだろう。
だがなぜか、彼女はそれを受け入れたくなかった。
クトゥーにはもっと何か別の、違う真実を語って欲しいと、思ってしまった。
某月吉日、晴れ渡った青天の空に、空砲が打ち上がる。
「なんであんなのもの上げるんだ?」と首をひねる魔族の生徒たちに、クトゥーは「様式美だ」とだけ答える。
そして開会式――
「宣誓―! 我々はすぽーつまんしっぷにのっとり!!」
運動会ではお約束の、選手宣誓が行われる。
「先生……すぽーつまんしっぷってなんですか?」
宣誓を行ったライムが、ふと気づいたように尋ねる。
「気にするな。所詮は口だけの形だけの言葉だ。意味知らんくらいでちょうどいい」
「それいいんですか?」
意味は分からないが、なんとなく蔑ろにしちゃいけない言葉のような気がしたライム。
「まーアレだ、ガキが背伸びして酒や煙草に手を出すなって常識くらいは守れって、目標かな?」
「よくわかりませんが、毒吐いてません?」
運動会を自分から始めた割には、スポーツマンシップなどというものにまったく興味も理解もないクトゥーであった。
「フン……こんなわけの分からない祭りを始めて。これだからニンゲンは……」
「む――!?」
その声を聞いて、途端にライムの顔が険しくなる。
現れたのは、A組担任、ステラ・リアであった。
「低級魔族とニンゲンが、徒党を組んだところで、本物の魔族に勝てるわけがないでしょうに」
クトゥーだけではない、低級であるにもかかわらず、自分たち高位魔族に逆らった愚かなるライムたちを見下し、蔑みに満ちた目であった。
「本物の魔族ってどういうことですか? わたしたちもれっきとした魔族です!」
「あらあら、必死ね」
抗議するライムに、意地悪く嗤うステラ・リア。
「ちょっと見下されたくらいで過敏に反応する……自分に自信のない現れじゃないの?」
「なっ……!」
彼女の物言いに、日頃はどんなときでも、敬語で通しているライムをして、「なんですって!」と怒鳴りつけそうになる。
しかし、そんな彼女を、既の所でクトゥーが止めた。
「そりゃあ、オマエもそうなんじゃねぇのか?」
「―――!?」
特に、嫌味のつもりで言ったわけではないクトゥーの一言。
それが、彼女の心の、痛いところを突いた。
「……本当に、癪に障る!!」
吐き捨てるように言うと、背中を向け、自分のクラスの待機場所に行ってしまった。
「なんなんですか、あの人!」
憤慨するライムにクトゥーが言う。
「お前ねぇ、口ゲンカの時には相手の話を聞くもんじゃねぇぞ」
「え?」
「口ケンカのコツはな、相手の話を聞かず、自分の意見をゴリ押しし、タイミングを見計らい揚げ足を取り、相手が黙ったところで、論破論破―! って叫べばいいんだよ」
「それ……なんの意味もないじゃないですか……」
呆れ果てるライムだったが、クトゥーの顔はふざけてはいなかった。
「そーゆーもんなんだよ、よく『話し合いで解決しましょう』なんて言うが、殴り合うか言葉をぶつけ合うかの違いが有るだけで、やってるこたぁ変わりねぇよ。言ったろ?」
クトゥーが先日言った言葉――「争いなんてものは、結局どっちの理屈を受け入れるか」。
「自分が不満を受け入れたくなければ、相手を押さえ込むしかねぇの……その場もルールも用意してやったんだ。そっちで全力で殴り合え」
そう言うと、クククと笑いながら、クトゥーは職員席に向かっていった。
「むぅ………」
残されたライムは、どこか不満げであった。
クトゥーの言っていることは、間違ってはいないのだろう。
彼なりの経験と体験を元に、行き着いた真実なのだろう。
だがなぜか、彼女はそれを受け入れたくなかった。
クトゥーにはもっと何か別の、違う真実を語って欲しいと、思ってしまった。