第23話「吹き荒れるピンクの嵐」(1)

文字数 2,024文字

「誰だ、オマエ?」
 そこに現れたのは、ザハガード帝国の「太陽の王子」こと、シューペリオン・マッケイと、その部下たちであった。
「ニンゲン? なんでここに……!?」
 不可侵の魔族領に、人類種族が現れたことに、ステラ・リアは驚く。
「あ、ご安心ください。我々、許可を得て入っていますので」
 そんな彼女に、シューペリオンの側近ハインツが、魔王の印が入った、「三日間の滞在許可証明証」を見せる。
「ついに見つけたぞ、悪漢クトゥー・アインデルセン!! 正義と愛の名のもとに、貴様を断罪せしめぐがががが!?」
「はい、殿下、ちょっと黙っててください。あなたが話すと、話した時間の十倍無駄な時間がかかるんです」
 シューペリオンの口を抑えつつ、ハインツはもう一枚の紙を出す。
「我々は、別件があって魔族領に一時滞在許可を得た者なのですが、このようなものを見ましてね」
 ハインツが見せたのは、クトゥーの作った運動会の予定を書いたプリント。 
「ウンドウカイのお知らせ」だった。
「我々はたまたまこの近くを通りがかっただけなのですが、この一文が目に入りましてねぇ」
 そこに書かれていたのは「飛び入り歓迎」の一文であった。
「是非とも我々も、参加させていただきたく思いまして」
 ニッコリと微笑むハインツ、しかし、その表情の裏にあるものがわからないほど、クトゥーは鈍感ではなかった。
(ザハガード……ガルディナがらみか……)
 細かな事情は分からないが、先日襲来してきた連中と同じ国の者たちである、無関係と考えるほうがおかしい。
「まさか……断るのですか? もしくは、我々が人類種族なので、ダメということで?」 
 下手に答えないクトゥーに、ハインツは笑顔で、さらに続ける。
(タヌキだなこいつ)
 ここで断れば、ヨルムンガルドは、人類種族に対して排他的である、とされてしまう。
 実際はその通りだし、魔族の大半はステラ・リアを見れば分かる通り、人類種族を嫌っている。
 だが、世の中、「そうである」ことを、公言すると面倒なことになるものは多いのだ。
「先生……なんであんの書いたんですか?」
 大体の事情を察したのか、ライムが耳元でささやく。
「ぶっちゃけ、ノリで書いた」
「普段はねちっこいくらい細かいところに嫌がらせするのに、変なところで考えなしですね……」
 その通りなだけに、クトゥーは反論できない。
「ふっ……はっはっはっはっはっ!」
 そこに、さらに話をややこしくする女が立ち上がる。
「かまわないわニンゲンども! どいつもこいつも、私が勝てばいいのよ!」
 ステラ・リアからすれば、クトゥーもシューペリオンらも、同じ“ニンゲン”、どちらも敵。
 一人の敵を倒すのも、二人の敵を倒すのも同じこと。
 むしろ一網打尽にできる、という程度の考えなのだろう。
「快諾、感謝いたします」
 その言葉を待っていたとばかりに、にこやかな笑顔で、言質をとるハインツ。
 完全に、手のひらの上で踊らされた形である。
「はっはっはっはっはっ! 我が挑戦から逃れなかったその意気だけは評価しよう! だが覚えておくがいい、蛮勇は勇気にあらず!! その身の程知らずの浅薄さ具合、後悔するがよい!」
「憐れで惨めなニンゲン風情が! 誰にケンカを売ったか教えてあげるわ! 遺書は書いてきたのでしょうね!」
 睨み合うシューペリオンとステラ・リア。
 だがクトゥーは知っている。
 彼らの目的は、要は自分を倒すことである。
 敵対しているようだが、この二人はむしろ仲間と言っても過言ではない。
「こいつら、足して二で割っても同じこと言いそうだな」
「どこにでもいるんですね……こういう人たち」
 魔族至上主義者と、人類至上主義者、正反対の者同士は、極めると見分けがつかなくなるという話であった。
「なんか、あんまり見たくない光景だなぁ……」
 ライムは、悲しげな顔になっていた。
 彼女は、魔族の生まれだが、人間に憧れ、人間そっくりの姿を得たスライムである。
 自分が憧れた者たちが、自分と同じ生まれの者と、どちらが劣っているか、優れているかで睨み合っているのだ。
 彼女の心に、影を落とすには十分な光景だろう。 
「……………」
 しばし、考えるクトゥー。
「はぁ~~~………」
 考えて考えてから、大きく、ため息を吐いた。
「ああいいぜ、バカども」
 そして、これでもかという憎たらしい笑みを浮かべ、ステラ・リアとシューペリオンに言い放つ。
「めんどくせぇ、要は両方に勝ちゃいいんだろ? ああわかったわかった、遊んでやる。人の悔しがる顔ってのは、どれだけ見ても見飽きねぇからなぁ!」
「なん………だと?」
「貴様……」
 魔族と人類、両方が、クトゥーに殺意のこもった視線をぶつけた。
「先生………」
 ただ一人、スライムの少女だけが、少しだけ嬉しそうな顔をしていた。

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