第19話「棒読みのスポーツマンシップ」(6) 

文字数 1,655文字

 第四競技――綱引き。
 ただの綱引きではない。
 二つの綱の真ん中には、巨大な落とし穴が空いている。
「負けたほうがもれなくその穴の中に埋まるという仕掛けだ」
 得意げに鼻を鳴らすクトゥー。
「どうせその穴の中にも、なにか入っているんでしょう?」
 わかっているとばかりに返すラーヴェルト。
「そのとおりだ」
「なに入れたんですか?」
「詳しくは内緒だ。ただ、三日は――」
「三日は臭いが取れないくらいの臭いものでも入れているんですか?」
「いや、三日間くらいは寝ることもできなくなるくらいのトラウマになるような物が入っている」
「なにを入れたんですか……!?」
「聞かないほうがいいぞ……くくくぅ」
 実況席からは、穴の中に何が入っているかはわからなかったが、想像もつかないろくでも無いものが入っているのは確かであった。
「今こそその力を見せつける時です! 木村くん!」
 ライムの号令と同時に現れたのは、巨大な“樹”であった。
 ツリーエント――植物型魔族の中でも、最大級の大きさを誇る、巨人の大樹とも呼ばれる者である。
「ウゴオオオオオオオッ!!!」
 一声唸るや、木村くんは、地中に急速に根を張っていく。
「木村くんの伸ばす根の深さは、地下十メートルに及びます! 岩盤にまで絡みつき、動かすことは能わずです!」
 綱引きの縄の一方は、不動の大樹と化した木村くんの幹――もとい胴体に、しっかりと結ばれている。
「甘いわね低級魔族! やりなさい、ゴルゴン!!」
 対してステラ・リアが送り込んだのは、「石化」の邪眼を持つ魔族、ゴルゴンであった。
「まさか!? B組の生徒を石化するつもりですか!?」
 非難の声を上げるラーヴェルト。
 これは運動会である。
 いくら真剣勝負と言えども、直接攻撃は反則だ。
「ふっ……見てなさい」
 ステラ・リアが言うや、ゴルゴンは閉じていたまぶたを開き、自分のクラス――A組の生徒を直視する。
「なんとぉ――!?」
 一瞬で石像に変わるA組生徒たち。
「どう? これでこの子達は微動だにしないわ! いかなる力で攻められようが、一切通じない!」
「なんという……本来なら行動不能になる石化を、絶対不可侵の防御の手段とするとは」
 ステラ・リアの、意外に柔軟な発想に、ラーヴェルトは素直に感心する。
 だが――
「え、ちょっと待って下さい?」
 微動だにしない石化したA組生徒、地中に根を張ってしまった、これまた微動だにしないB組の生徒。
「「しまったぁー!」」
 同時に声を上げる、ライムとステラ・リア。
「ここまで完全な千日手になるとは!」
「いや、膠着状態じゃなくて、最初からどっちも動いてねぇだろ」
 悔しがるステラ・リアに、珍しくクトゥーがツッコんだ。
「こりゃ勝負なしだな」
 結果は、引き分けとなった。
「やれつまらん。せっかく用意したアレが無駄になったか……」
「一体、あの穴の中には何が………」
「あ、待て、見んほうがいいぞ」
 クトゥーが止めたが、ラーヴェルトは穴に近づき、恐る恐る覗き見る。
「――――――!? これは………◯◯◯◯!?」
 口に出すだにおぞましいモノが入っていた。
「ひ、ひいいい……」
「だから見るなと言ったろう……三日は夢に出るぞ。夢の中で呪文を唱えれば帰っていくが、間違えたら心を喰われるから、気をつけろ」
「じゅ、呪文! 呪文を教えて下さい~~~!!」
“Thing(もの)”――とだけ伝えられるものがある。
 それが一体何なのか、いつからいたのか、何故に在るのか、全ては不明。
 名前を語ることすら禁忌とされる、それゆえの、“Thing”――
「運が良かったな、あともうちょっと見続けていたら、発狂してたぞ」
「ひいいいい」
 一説には、全ての存在を産んだ創世の神よりもなお古き時代にいた、支配者ともいわれているが、一切は不明である。

――そして、両クラス、一進一退の戦いを繰り広げ、ついにプログラムは終盤に差し掛かる。
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