第7話 カウンセラー

文字数 1,095文字

 よくわからない存在、カウンセラー。
 何年か前、友達をカウンセラーに奪われたような気に、なったことがある。
 彼女は、誰に対してでもそうだったのだろうが、いつも、自分を表現することに、四苦八苦しているように見えた。演技をしないと、心のうちを相手に見られてしまう、そしてその心のうちが、ほんとうに自分の心のうちなのかどうか、自分自身でもつかめないでいるようだった。
 それは彼女にとって、人とつきあうということにおいて、大変な労力を費やしていたものだったに違いない、と私は思っていた。
 ある日を境に、彼女の中の、ほとばしりきれない、もどかしいエネルギーが、とつぜん消え失せた。
 マグマが自然に昇ったのなら、その熱がまだ残っていて、痕跡も目に見える。また、鎮静したのなら、それでも内側からの熱がまだ伝わってくるはずだった。
 でも、なんでもなかった。
(ワタシには、カウンセラーがいる)
 そんな、精神的な支柱が見え隠れし始めたとき、彼女は演技にも、心を秘めるにも、力をいれなくなったように見えた。表情はあるのだけれども、無表情になったような気がした。

 友達として、つきあってきて、なんだかつまらなくなってしまった。彼女の中で、震えていた何かが、とてもきれいだった。それが、カウンセラーという一本の支柱のできあがりによって、失われてしまった。
 カウンセラーがいなければ、彼女と、誰か私や友達との関係も、変わっていたんじゃないか、と思えてしまう。彼女自身も、自分の中で何かをフッ切って、時間はかかったかもしれないけれど、自分で、自分の中に、自分のハシラを作れたんじゃないか、と。
 カウンセラーというのが、彼女にとって素晴らしい存在だったことはわかる。
 しかし、あえて問いたい。カウンセラーとは、この世において、いかなる存在なのだろうか。
 悩める人のためにやっている、などという考えをおもちなら、気色悪くてたまらない。上から下へのあの矢印、上下関係の発芽ではないか。
 また、金のためにやっているのなら、あまり儲けないほうがよろしい。人が悩めば悩むほど、稼げるなんて、まるでサギではないか。世の、悪徳商法に似ている。
 カウンセリングというのが、これからどんどん必要となれるんだろうな、と思う。
 それは、この世の人間どうしのまっさらなつきあいが、どんどんできなくなっている、ひとつの発露に見える。
 日頃のみぢかな友達関係、人間関係で、自分に正直になったつもりで、自分を開放してしまえば、カウンセラーはいらない。
 開放したくないなら、閉じていればいい。そのままの、ありのままで、人と接していたいと、いつもそう思う…
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