第19話 また働いて

文字数 1,441文字

 汚い仕事を、やりたいと思った。
 職種は、「水まわりの詰まりをなおす」
 レストラン等の厨房、家のシンクの詰まり、駅やビルの便器の詰まり。日当一万二千円也。
 人間のタレ流したヘドロ。ウンコ。小便器の向こう側にある尿石。
 人が、目をそむけたくなるようなものを、最後まで見続ける勇気。触りたくもないものを、処理する勇気。
 このしごとを選んだ動機である。
 目的があるから、よく働く。もう一ヵ月がたつ。社長いわく、「社員にならないか」
 一生懸命働けば、金は入って、生きていけるものだった。
 私は、社員を断った。
 朝八時から夜何時に終わるか分からない、この仕事に決めてしまったら、家のことはすべて、妻に任せっ放しになってしまう。
 私には「家庭」がある。
 男はロードー、女はイエ、は、イケナイ。分業は、いけない。国のことは政治家に、教育は学校に、心の空虚は宗教に。そのナレの果ては、目も当てられぬ。家庭内の分業も、同じこと。
 イエは、ヒトの生きる、基本的な場所だ。そこから、分業が始まっては、いけない。
 分業は、楽だろうと思う。けど、そこにあるのは、ひとまかせの精神。(おいおい、精神論かよ)
 私にとって、家庭は、独立した人間どうしの、帰る所が同じ場所でありたい。独立できぬ子どもがいるのなら、その子が生きていけるようになるまでの、保護地域。
 私がいなくなったら生きていけない、なんて状況を、家庭の中でつくりたくない。家族一人一人が、ひとりでも生きていけるように。
 家庭が甘い安住の地になってしまうことには、危機感がある。(ひそかに憧れている気持ちもありますが)
 今、私の求める職場は、通勤三十分以内。八時から五時までの勤務時間。それは最低条件だ。保育園の送り迎え、どちらかを私がやりたいからである。妻だけに送迎、料理、掃除洗濯をしてもらうのは、やばい。
 給料、各種保険付くのなら(保守的だナ)二十万以上。完全週休二日制。
 この条件を満たす職場が決まったら、私は今のしごとを辞める。
 金は稼ぐべき所で稼ぎ、その金をとまりぎ仲間やサボテン通信費用等、自分がだいじだと思うところに費やしたい。

 ─── 気がつけば、三ヵ月ぶりの発送です。通信を三ヵ月もサボッていたにもかかわらず、毎月第四日曜日には、必ず誰かが、「とまりぎ」にいらっしゃった。
 あれ? 通信ださなくても、人は来るんだナ。そう思ってしまったことも、通信発行の遅延につながってしまった。
 自分と、人に対する甘えをどうにかするには、自戒する心を強く持つことだ。自分と、まわりの人間を、だいじにしたいと思うなら、まず自分を律していくことだ。
 好きなことのできる時間を有するということは、恐ろしいことだ。何もしないでいることもできる。何かすることもできる。
 そんな自己を見据える目にだけは、鋭敏でありたい。

 あ、インターネット版のサボテン通信が、七万件のホームページが登録されている会社から、「優秀なホームページ」として、小さな表彰バッジ(?)を画面上でいただいたりしました。
 この通信で、しつこく書き続けてきた「学校拒否体験」、これから書こうと思っている「会社拒否体験」を、出版社に持ち込むという話もあったりします。ありがたいことに、編集者を紹介して下さる方もいて下さったりして、でもこれからどうなるのかなんて、まったく分かりません。ただ、今できることしかできません。そうせざるをえないから、やっていく、これを基本に、やっていけたらと思います。
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