第13話 働かぬ私

文字数 780文字

 登校拒否をしました。
 今は、出社拒否を繰り返す。
 人が生きる上で、必須アイテム的集団生活を、拒みつづけざるをえない自分を、抱えている。
 こんな自分はどこへいくのだろうか。
 不安になる。からだが疲れているとき、そして、やるべきことをやっていないとき(働いていないとき)、よく不安になる。
 学校へ行くのも、会社へ行くのも、ただ、イヤだったから、続かなかったのである。
 イヤなものはイヤだ、という、ただ、それだけの話で、べつに、深い意味もない。
 ただ、不安なだけなのだ。こんな自分が、これからどうなっていくのか、ということが。

「世の中、そんな、甘いもんじゃない」
 娘の通う保育園で、わんぱく坊主が先生から言われていたらしい。
「さっすが、〇〇先生、いいこと言うよね~」
 と、娘。
 しかし、父はすかさず、
「いや、世の中、甘いもんだ。甘くなかったら、お父さんなんて、もう死んじゃってたよ」
「えっ。お父さん、死んじゃってたの? …かなしい」
 と、娘はほんとうに哀しそうな顔をする。その場で、父はひとりでうなずいている。
 しかし、ほんとうのところは、わからない。
 世の中あまいのか、からいのか、そもそも、世の中というものが何なのか。

「学校なんか行かなくてもいいんだよ」
 と、私は娘に言っている。自分の好きなことをして生きていけ、と。
 そんな家庭環境に育ったら、こんな父の影響を受けながら、娘は大きくなるのだろう。
 家族も、ひとつの世の中だ。人が人に、影響を与える場だから。
 そして、成長するにつれ、家庭だけが世の中ではなかった、と気づくのだろう。
 こんな家庭がいやであれば、大きくなってから、家を出ていけばよい。
 親を選ぶことはできないが、自分の身を置く場所は、選ぶことができるとおもう。
「世の中」とは、自分で選んでいくものではないだろうか。いろいろな世の中が、あるはずだ。
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