第31話 夜

文字数 463文字

 夜、眠るということは、たいへんな勇気が要る。部屋の灯りを消して布団にもぐり、さあ寝ようとしても、いろいろなこと、大体がもう過ぎてしまってどうにもならないことなのだが、いろいろなこと、私はあの女にあんなこと言ってたなとか、あの男にあんなこと言ってたなとか、大勢の人達の前でマイク持って自分の話をした、恥ずかしいことなどを、思い出してきて、わっと飛び起きてしまう。
 飛び起きる前に、呪文のように、布団の中で悶々としたあげく、「死が来る」と、かならず独りごちる。なんでこんな言葉が出てくるのか、分からない。なんの根拠もなく、なんのてらいもなく、ノミが無心にぴょんとハネるように、「死が来る」と言う。本人、まったく何の思惑もない、無策の独り言である。
 自分のした恥ずかしい行為、悔い、過去に対して、もう戻らない、焦り。こんな自分のままで、これからも生きていくのかという、不安。これらが、ひとつの塊になったものを、くるしくてかなしくて、どうにかしたい、と体が言う。
 体からの、いたわり。それが、病であり、死というものでは、ないのかな。
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