第15話 子どものこと

文字数 1,038文字

 最近、マミが反抗的である。
 世に言う反抗期とか、そんなことは、どうでもいい。
「こういう子には育ってほしくない」
 という子に、育っている、とでもいうのだろうか。
 すぐに泣く。すぐ口答えをする。すぐイヤな顔をする、すぐ不平不満を言う。
 この「すぐ」、本能的とも思えるほど反射的に、このような態度を出すマミが、気に入らぬ。
 少しでもいいから、考えてほしい、と、父は子に注文をつける。
 なぜ、かくもたやすく泣けるのか。なぜ、人の気も知れず、口をとんがらせるのか。
 五歳の子どもにそんな要求をするのは酷、などと、これを読まれている方は、思うかもしれない。
 しかし、この子が私の子である以上、この子のことは、誰より知っているつもりでいる、傲慢な父親が、私である。
 むかしは、こんな子ではなかった。
 本人にも、このことは伝えた。
 風呂に入りながら、一緒に寝ながら。
「マッちゃん、昔のマッちゃんはね、よく考える子どもだったんだよ。今は、だんだん、考えないマッちゃんになってきている。
 お父さんが、『なんで?』って聞いても、すぐに『わかんない』って言う。
 少しは考えてほしいんだ。少しでも考えて、ほんとにわかんなかったら、『わかんない』って聞いてほしい。全然考えてないんだもん、今のマッちゃん。
 寝不足だよな。あのね、ちゃんと、たくさん寝てないと、アタマさんも、よく考えることができなくなっちゃうんだ。」
「そうなのよ。ワタシも、いま、いおうとしていたの」
 実際、そうなのである。
 だいたい十時くらいに寝て、朝は子熊ちゃんの目覚まし時計で七時に起きる。七時に起きる、というのは、彼女自身が決めた。
 朝、早く起きれば、登園時間までにたっぷり大好きなお絵かきができるのである。この楽しみが、彼女を早く起こさせる。
 夜、遅く寝るのは、父母の怠惰によるところが大きいが、父が
「お風呂、入ろう」
 と言っても、
「えー、もう? これ、書いてから」
 と必ず言う。
「じゃあ、それ書いたら、おいでね。待ってるから」
 わりと早く来て、父は早く子を寝かせたいために体もろくに洗わず、カラスの行水で、さっさと出、寝床へと向かう。
 川の字に三人、布団を並べてからが、また長い。
 マミはよく笑い、よくしゃべる。時間は、あっというまに過ぎる。その顔は、ほんとにリラックスしきっている。要するに、大好きな両親に挟まれて、幸せそうな、表情。
 父が出社拒否をしはじめてから、この、いい顔が、マミの表情に頻繁に現れるようになっている。
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