第31話

文字数 1,277文字

ずっと
目を つむっていたから
眠っているのかと
思ったのです

聴いていない
て 思っていたから
自分のこと ばかり
話してしまって

あと
幻覚かも


退院してから
この台所の窓から
とか

買い物に出たときの
信号待ち
とかに

似ている カラスを
何羽も 見かけたものですから

黒っぽい
別の鳥と 見間違えたり
黒い傘とか
猫 とか

路地裏に貼ってある
探偵のポスターの黒い犬も
あなたかと 勘違いして 勝手に 驚いたりして ...

「 嗚呼、そうでしたか。成程。先ず、吾輩は睡眠時と親身に話を聴く時の顔が同一な為、他属から反感を買い山八分の経験も御座いますが烏属には割と良く有る傾向です。
  其れと、貴女様が町で見掛けた彼等は幻覚で無く全員吾輩です。昨年、天狗総裁からご教示頂いた呪法の一ツで、旧来の擬態や変転、目眩しで姿を隠滅する呪術とは逆で大胆に己の数を殖やす事で幻覚、勘違い、即ち不在と悟らせる新通力です。分身の術のアップグレード版ですが抑々目的が違います。戦術でなく御気遣いの作法で有り斬新かつ奥ゆかしい幻術なのです。」

以前より
カラスは くちばし周辺の
羽毛が のびたようすでした

とくに
くちばしの真下のところが
ふぁ ふぁっと
先端が広がるように のびていました

わたしは
気づかれないように
ちいさく 深呼吸しながら

いま この瞬間を
しっかり 味わおうと
目をつむりました

「 彼此一〇年程前でしょうか。天狗総裁が敬する四天王広目天から 弥生の月に交付される筈の大宇宙評議会参加認定書が卯月四日に成っても届か無い。其認定書は総裁が二〇年間、高尾火星間裏親善大使を担い得た天狗属初の威名で有り、同月一五日開催の祝賀会の前日には認定証実物が欲しい到着が待ち遠しい。然し四天王広目天への出過ぎた催促は遠慮したい遠慮したいが広目天に公職を思い出して欲しい。己の存在を思い出しす為に印象付けたいが然し不躾な愚行は避けたいと三日三晩苦しみ喘ぎながら捻出された呪術です。見事四日後に鳩郵便が有り四天王広目天からお引立て賜った夏の大宇宙評議会で天狗総裁は講壇に立ち目高誕生時の尾鰭の振動数列び人属の微細な心境変化と酵母属の発酵湿度と泡数の互換性に関する公式論文を発表したので候。」


そうだった

わたしも
わすれていました

わすれていた
わけでは
ないのだけれど ...

「 ごめんなさい
  あの手紙 だるまの絵の
  あの手紙の返事をせずに
  ごめんなさい 
  自分と向きあう フェーズに
  没入しておりまして 」

「 嗚呼 ... あなや貴女様こそ目を閉じて居られるので眠ているのかと嘴が滑りまして。総裁や呪術の件は忘却下さい。評議会も。論文の題目も。広目天様の件は特に! 嗚呼、放免されたばかりなのに。」

なんか
ごめんなさいでも
大丈夫です

「 わがはいは ー
  睡眠時と
  きちんと 起きているときの
  顔が 同一です

  つまり ー
  きちんと 起きてるときって
  あんま ひとの話は 聴こえてないので
  大丈夫ですよ 」
 
「 ... ムニャ ムニャ 」

こんどのカラスは
ほんとうに
眠っているようでした


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