第25話

文字数 2,840文字

その後は
長らく 沈黙が 続きました

質問に対する
先方の沈黙は 大概が
否定を 意味しますが

先方が 自分
自分な 性格だったりすると

相手の反応には
まるで 関心がないため

次に 自分が 話したいことを ひたすら
頭のなかで 絶賛 整理中 とゆうケースが
これまでのデートに 何度か ございました

すると 長い沈黙のあと
今度は とある 映像が わたしの
眉間のうらで 自動再生され はじめたのです

とゆうことは どうやら
これまでの長い沈黙のわけは
前者でなく 後者で あったようでした

この生き物は
自分が大好き マイペースかつ
我が強い 性質のように 感じます

そのようなたちである
先方が こちらに 伝えたいこと

つまり
現在 わたしの眉間のうらで
自動再生されている 映像は いずれも
わたしが 幼少期から
十代のころの回想のようでした

内容は
学校や 施設の教育者 P T A ...
または 知らない おとなたちが わたしを遠くから ながめ
なにか 噂しているような 仕草の連続
であり ...

彼らの視線は
どれも おだやかで 優しく
冷たい 印象でした

二十人目
くらいから 映像が
最近のものとなり

名前は 忘れてしまいましたが
S淵さんより 前の前の前の前くらいの
検体男性(正確にゆうと 検体だと勘違いしていた 商社勤務
暴言癖 プラス 虚言癖のある男性)の 元彼女と称する
巻き毛 銀行員の映像が 再生され はじめたのでした

あぁ
おぼえている
この夜のこと

たしか このとき
わたしたちは M鷹の バーで 飲んでいて
はちあわせした この巻き毛 銀行員は
彼との雑談から わたしの生い立ちを 知り

「 はなれたほうが いい
  あの子は 本当の愛を知らない 」と

彼に そっと
耳打ちをした 場面でした

わたしが お手洗いから
もどっていることに 気づかず
の 出来事でした

「 あぁ なるほど
  そうゆうことですか 」

この巻き毛 銀行員
そして これら 映像に登場した人物は 全員
わたしに 同じ台詞を ゆっていたのです

" あの子は 本当の愛を知らない "
" あなたは 本当の愛を知らない "

施設出身者
家族と暮らせない こどもにとっては
通過儀礼とも ゆえる 世間の目
言葉の洗礼であり

これは 我々が
社会の常識を知り
自分の生い立ちや
それに付随する自身の本質 本性を
客観視する術を身につけるために 欠かせない
儀式だと 理解していました

しかし
何回か その言葉を
浴びたり 浴びせられている
こどもたちを 目撃するうちに

客観視すべきは
自分でなく 世間であることが
よく わかりました

なぜなら
この言葉を使うひとの
方程式のようなものが 透けて
見えてきたからです

例えば この台詞を
漫画や 映画などで 耳にする場合

たいてい ふられたほう
プライドを くじかれ 怒りにみちた キャラクターが
捨て台詞のように この台詞を 吐いています

現実の世界でも 同じく
口紅が やけに 赤かったり
やけに 革靴の先が とんがっていたり

こどもの感覚として
プライドが 高そうな おとなが
この台詞を使うことが 大半に見えました

この子が
万引きをしたのは
本当の愛を 知らないから

あの子が
県大会で優勝したのは
本当の愛を 知らないから

本当の愛を 知らない子は
妙な 色気が あるのね

このように 不可解な
発言を 何度も 目の当たりにするうちに
当時 こどもだった わたしは

本当の愛とは
おおきな権力のひとつなのだと
本気で 信じていました

天賦の才能も
魅力も 努力も 夢も
太刀打ちできないほどの 権力です

小学生でしたので
本当の愛って 百万円くらいな 金額かと

たしかに
わたし 百万円
見たことねーしって
なにも 疑いませんでした

だから
だから おとなになって
超絶 わたしが ぶちあたった壁は

全然 金銭や
権力では なかった
本当の愛 問題でした

これまで
こつこつと 構築してきた
自分像 外側の世界 世相 常識を
一瞬で 粉砕する 暗みのある 小説 音楽
絵画 お芝居 ひと 風景 ...

バイトの帰り
バス停の近くで いつ
どんなときも そこにある 楓の木

焼けた
都会の繁華街に
打ちつける 豪雨

雨上がりに
遠くの山々から
立ちのぼる 霧のような湯気

いつか
スタバにいた
黒いグラサンの男

戸惑うようで
全然 戸惑っていない
聡明な 所作

彼のテーブルの下で
じっと 男を見護る
黒いラブラドールの瞳

ふいに
そのようなものと
遭遇するとき

本当の愛とは

ほんとうは
本当の愛の名前ではなく

決して 口にしてはいけない
なにかの 隠語のような
禁断の言葉 ではないかと
感じるのです

なぜなら
” その ” 気配を 感じる場所には
その名前を 口にする者は いないからです

" イッツ グレイト トラップ "

わたしが
母親を 想うときの気持ち

おだやかで 優しくて
冷たい ...

幼少期に 何度も
浴びせられた台詞を吐く
映像の彼ら とくゆうの ムードと
とても よく 似ています

小三のとき
わたしは お母さんに
ふられました

こどもが
親に ふられるって
どうゆうことかと 想像します

それは
第三者的な立場で
考えても 苦しい

そう
わたしは
" ふられたほう "
当事者であったのです

おだやかで 優しくて
冷たい

これまで
浴びせられた たくさんの表情から
「本当の愛」という権力のない みじめさを
わたしは 習得していた としたら

わたしは 奪われた地位を獲得するために
自分の母親を 下の身分に 仕立てあげていたとしたら

" イッツ グレイト トラップ "

現在のわたしが 単なる
あの映像に出てきた顔々
” 教育者たち " のコピーだとしたら

おだやかで 優しくて
冷たい気持ち

この母親への想いは
ほんとうの わたしの気持ちはない
のかもしれない

ほんとうの
わたしは 母親を ただただ
恨み続けているのかもしれない

ほんとうは
ぶっ殺してやりたいのかもしれない

謝罪して ほしいのかもしれない

いや ほんとうは
理解したいのかもしれない

許したいのかもしれない

甘えたいのかもしれない

わたしの
ほんとうの気持ちよ
姿を 現してほしい

わたしは 自分の
本当の気持ちと 出会いたいのだ

わたしは
オリジナルの自分に なりたい
ほんとうの自分になりたい

" イッツ グレイト トラップ "

この声が
言うように この世界は
プライドの高い
他者を落としてまで 自らの身分を保ちたい
そして 怒りに満ちた コピー人間を量産するための罠が
仕掛けられているのかもしれません

もしくは

一部の人間を
隠された真実に 熱狂させ
それまでの 偽物の世界から 偽物の自分から
教育を受けた コピー集団から
孤立させるための 恍惚の罠が
仕掛けられているのかもしれません

" エクシタ シー "

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み