第20話

文字数 1,633文字

それは
まさしく

ひ‐みつ【秘密】
について です

隊長
我々にとって
秘密という 体験は 薄暗く
多湿で

その記憶を
辿るだけでも
喉の奥が かたく締まるもの では
なかったでしょうか

隊長
我々にとって
秘密という音色は
影そのものであり 無力なもの
孤独なものを 鎖で縛り 刃物で
操るものでは なかったでしょうか

そして
秘密とは

その名のとおり
自発的に 隠したくなるもの では
なかったでしょうか

我々は
これらの類いを
数々 体験して参りましたが

「 このことは 誰にも言わないでね 」

と 秘密を 仕掛けてくる者たちを
いくら分析しても わからなかったことが

たった ひとつの
" 無言の " 秘密に触れるだけで

まるで
霧が 晴れるように

これまでの 秘密は
すべて偽物で あったのではないかと

たった ひとつの
無言の秘密に 触れることで
ずきゅんと直感したのでございます 隊長

秘密とは
本物の秘密とは

本物について 語ることは
その斬新さ 気高さと わたくしの語彙力の欠如ゆえ
難しいので まず 偽物の説明を させていただきますと

かつて
我々が 体験していた
秘密とは

わたくしが さきほど
病室で 警察のひとに ペラペラ
ペラペラ 話してたみたいな

状況次第で
立場を 一変できるもの
無害化できるもの
なんなら 有効活用できるもの
であり

案外 ちょろいなと
秘密とゆう関係に 人間は
依存しやすい 生物なのでございます

屋上から臨む
黄金の雲々に 少しづつ
オレンジが 混じりはじめました

くるりと
その反対側の 空をみやると
雲々は 影を含んだ
深い赤に 染められていていました

ワンブロックさきの下界では
クラクションの音が
連続して 鳴り続けています

わたしは
握りしめた 手のひらを
ゆっくりと ほどき

じぶんの汗で
しめった 黒い羽
水辺の鳥類でない 黒い羽
夕陽に染まる 黒い羽を みつめて
思わず 笑いがこみあげてきました

隊長
秘密とは
確実に

確実に
誰かに 言いたくなるもの
なのであります

そのために
秘密を 話すために
人間は 友達とゆう 人材を 多く
持ちたがるのではないでしょうか

秘密って
ほんとうの 秘密ってゆうものは

弱いほうを もっと
弱くして 操るものでも なく

淋しいほうを もっと
淋しさに 震えさせるものでもなく

優しいほうに
我慢させるものでもなく

やわらかいほうを
改造するものでも なかったのです

ほんとうの
秘密ってゆうのは

隊長が
よく知っているものに
喩えるならば

ポケットのなかで
あたたかくなってしまった
先週のキットカット ミニ

まくらのしたで
砕け散った ゆうべの ルマンド

隠すこと
それ自体が その美味しさを
うわまわる

もったいなくて ありがたい
うれしい 楽しい おめでたい
そんな わたしには 贅沢ですって ...

気がつくと
夕暮れのショウは 終わり
日没とともに 頬を撫でる 風が いっそう
冷たくなるのを 感じました

幻想的な 淋しいは
ただの 夜の闇に 変わりました

まずは S淵家から
慰謝料を 受け取るための手続きをしないと

寝巻きに 革靴
破れたダウン ぼさぼさ頭のわたしは

錆びた扉を 力いっぱい開き
薬品くさい 階段を降りて
もう 誰もいない 病室のベッドで
請求の段取りについて 考えることにしました

まるで
異次元のような 真実
わたしのなかの 偽物と本物

現実と神秘
さまざまな世界観が
何層にもかさなり 交差していて

なにか
俗っぽいことに専念しないと
わたしとゆう存在が この地球から
消えてしまいそうだと 思ったからです

「 このことは 誰にも言わないでね 」

これまで
何十回と言われてきた この台詞は
わたしの心を 傷つけていたのだ

わたしは
病室にもどって
女のほうの警察が 置いていった
慰謝料申請のプリントを 読みましたが

そのときも
黒い綿毛を しっかりと
にぎっていました

なにか
濁りのないもの 触れていないと
わたしとゆう存在が この地球から
消えてしまうと 確信したからです

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