第14話

文字数 1,730文字

銀色の月あかり
明けがたの暗闇 そして
まぶしい 日中の陽射し

遠くで
聴こえる車のクラクション

何度か
目覚めそうには なりましたが
わたしは 眠りつづけました

世界が すばらしく
変わっていることを
願いながら

そうだった

わたしは この行為に
" ごまかす " とゆう
名前をつけていたのだった

ボーン イン ザ R.H.Z.

R.H.Z.
陸のヒト属の
文明下に わたしは 生まれました

てゆうか
わたしは ひたすら
眠りつづけるのでした

生まれる環境は
べつとして
価値観は いくらでも
選べますから

ぎゅうと
目をつむって

ぎゅう
ぎゅう ぎゅうと
眠りつづけました

すると
ふたりのおとなが

そう
ふたりのおとなが
この病室を おとずれたのは
それから どれくらい
あとのことだったでしょう

わたしは
いまから
まえのまえの水曜日
たぶん

S淵さんといた
たかいビルの洗面所にある
斜めにひらく 小窓から
こころを にがし

深夜の街を しばらく徘徊したあと
ビルの一室の冷蔵庫のそばに よこたわる
自分のからだに もどった

その瞬間から
いっさいの記憶がありませんでした

目覚める覚悟を 決めると
わたしのからだは ここ
ふるびた病室の
パイプベッドのうえに存在していました

天井の染みと
きばんだ 蛍光灯

うでには 点滴の針が さしてあり
ドラマの患者役のような
うすいみどりのねまきを着ていました

ふたりのおとな とは
けーさつのひとでした

そのひとたちの
話によると わたしは
〝 しょ ーうがいざいのひがいしゃ 〟
とのことです

これも
おそらく R.H.Z.
陸のヒト属がつけた名前です

そして
S淵さんのたかいところは
ゲンバ と 名づけられ
わたしのお気に入りの かばんは
ショジヒン でした

それらを
届けるために そして
チョウショを とるために
これまでも このひとたちは
何回かこの病院まで 足をはこんだ
とのことでした

警察のひとりは
体育の先生みたいな
背のたかい 女のひと

黒のパンタロンに
バレーボールシューズ
わたしの点滴のうでをさすりながら
やさしく首を かしげます

「 あの夜のことは 思い出したくないでしょうね 」

男のほうは
読むように 話すのです

「 S淵は携帯電話、財布、衣類、靴など、あのがらんとしたマンションに残したまま、現在行方不明になっておるのです。まぁ 何かの事件に巻き込まれたというより、逃亡中でしょうが。あなたが亡くなったと勘違いして気が動転したのでしょう。先程、自宅から別携帯の充電器が見つかって、調べているところです。 」

三人部屋の
入口のちかくが
わたしのベッド
あと ふたつは 空いています

「 事件翌日の午後でしたか、S淵の仕事相手からS淵の自宅に連絡がありましてね。その後ご家族のかたがGPS発信を通じてあのマンションを見つけて警察へ通報。警察が駆けつけると、全裸で気絶しているあなたが発見されたという流れです。我々も驚きました。」

「 ご迷惑 おかけしました
  その夜のことは
おぼえていませんが ただ … 」

わたしはS淵さんとは
半年前から男女の関係があったこと

ダンジョノカンケイ

たびたびS淵さんから
暴力をうけていたこと

ボウリョク

いつも第三者は おらず
共通の知人も
おらず
その夜もS淵さんから ひどい
暴行を受けていこと
これまで

病院には
かかったことがないこと

だって 痛いし
なんか ゆわれるの めんどうだし
こわいし 泣

ナク

幼少期から
じぶんは暴力を受けていたこと
機能不全家族で 泣
育ったこと

キノウフゼン
ナク

そのため
じぶんは 自己肯定感が低いこと
ゆえに わりと違和感なく
暴力に迎合する
性格であること

ゲイゴウて

ただ
そろそろ このような関係に
見切りをつけたかったこと
などを

すらすら
すらすら

なにも 読んでいないみたいに
強弱まで つけて
てゆうか じっさい
なにも 読んでいないのですが
てゆうか

強弱つけて
すらすら ゆうとる
じぶんに 少々
驚きましたのん

わたしの足首を
噛んでいるはずの
尖ったはがねは もう

いたくも
かゆくも なんとも
ないみたい

わたしは
いつのまにか
罠をかける側の R.H.Z. に
はなのない R.H.Z. に
すくすくと 育っておりましたのん

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み