第13話

文字数 1,164文字

「 たとえば …
  なのですが 」

わたしは カラスに
ひそかに 考えてたことを
うちあけてみることにしました

機嫌がよさそうだったので
いまだと 感じました

この みきわめは
我々 ヒト属の
世界を ちょこっとだけ 生きやすくする
術であることは カラスには 内緒です

我ながら
ちいさい感じですが

平日のひるま
高架下に 何時間もいるサラリーマンだとか
スタバの窓のちかくで じっと動かず
ぶつぶつゆってる 主婦のひとだとかです

深夜 団地のすきまの
公園のブランコにゆられてる
誰かとか かもしれません ...

はじめて
じぶんの話を
はじめた わたしを 理解しようと
こまかい まばたきをしながら
耳をかたむけてくれる カラスに わたしは

こども時代から
あたためていたこと

わたしと同じ気持ちを
知っている誰かと つながりたい

同じ経験をした誰かと
マニアックな
研究はっぴょうをしてみたい

そんなことを
できるだけ シンプルに
恥ずかしいぶん
さくさく 説明しました

ずうずうしいかも
とも 感じましたがね

カラスのあごのスイッチさえ あれば
わたしと似たタイプを てきかくに 識別でき
だたちに つながれるのではなかろうか と

期待してしまったことも
さくさくと
お話しさせていただきました

アプリで さがすと
わたしの希望ではなく
なにかべつの おおきなものの意図に
おどらされているような 気がして
その 歯車感が いやなんです

「 きょうしゅくですが
  あなたさまには しばらく あごの
  スイッチをオンにしていただきまして
  わたしと おなじ色の人間をみつけてほしいですのん
  できれば 同世代が よいですのん 」

そして
連絡先を わたしてほしい
じゃないや
そのひとの だいたいの居場所を
知れるだけで よいのかも ...

そのように
カラスに お願いしました

「 同世代じゃなくても 全然 よいですのん 」

「 同世代の方が話が合うんじゃないですか。そんなのお易い御用です。」

カラスは くちばしを閉じながら
微笑むと かかとに ゆっくり体重をこめてから
ばさぁと やわらかな風を 起こし
上空に とびたちました

街路樹をこえ 電線をこえ
建物の屋上にある歯医者の看板をこえて

雲のむこうの
あかねいろの世界へ
とけるように消えてゆきました

カラスは
ふりかえらなかった

そして
それから 数ヶ月
わたしは街で あのカラスを
見かけることはありませんでした

もう すこし
かっこうつければ
よかったかな

おもたい胸のうちを
話しすぎたと 自分のだめさ
おもたさを 悔やみました

「 わがはいは
  いつでも 天高く 羽ばたけるように
  つねに 身軽でいたいのであります 」

ぼんやりとした
日常生活のなか ふと 思いだす あのカラスは
わたしからは ほど遠い 野性のカラスでした

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