第18話

文字数 2,146文字

「 ちょう わすれてる 」

ひじに あたった
やわらかい 感触は
小三くらいの 女の子で

ちょう 見覚えのある
赤と白の 鹿が 編まれた
毛玉だらけのセーターを 着て
わたしのひじを 両方のちいさな
手のひらで おさえていました

このこどもは
まさしく ...

「 とくしゅにんげん たんけんたーい 」

小三のころの
わたしなのでしょうか

おぼえてます
よく おぼえてますよ

だって わたし
おとなになった いまでも
特殊人間に 興味津々だもの

特殊人間 探検隊
わたしは 隊長
ひとり隊長

あの頃の わたしは
そんな ひとり遊びに 執心していたのでした

特殊人間とは
ざっくり言うと 豹変する
おとな

そんな ひとたちの
実態を 体当たりで 研究する 遊びです

いわゆる
ストレス過多
演技性人格障害
病的なナルシスト

いや もはや
病的なくらいが
健康的

戦後から続く
角度によっては E戸時代から続く
角度によっては Y生時代から続く 奴隷制度
とも 記される 社会システム

でかくて 不条理な
地球規模のシステムに 適応するために
努力してきた がんばり屋サン

でかくて
長いものに きちんと
巻かれるために

でかくて
長いものの 価値基準
美的センスに 則した がんばりを 実践して
評価されたものの なんか
くるしいひと

がんばっているのに
なににも 巻かれることなく なんか
くるしいひと

その
つらさを
かくしてるひと

つまり
K村教授とか
S淵さんのような ... ?

「 おかあさんにとって うちはとくべつ
  とくべつだから だれにもみせない ほんとうの
  きもちを うちだけに みせてくれる
  さちこ ばりやば
  ばりやば ふしぎしょうじょって なったじゃん 」

わたしみたいな
訳ありの境遇なら 当たり前かもだけど
両親がいようが 家柄がよかろうが
高学歴だろうが

誰にでも そうゆう

つらさとか
コンプレックスとか
いろいろ あるんだなって
わかってきて ...

みんな 必死で
余裕がないんだって

それが
この " たんけん " で
わたしが 学んだことです

だから たくさん
許せるようになりましたよ

過去とかも いろいろ

いろいろ
ぜんぶ

仕方ない
仕方ないことだった
みんな 被害者だったんだ
ってね

「 せんせいも ともだちも みんな
  みんな うちだけに
  ほんとうを みせてくる 」

「 こーちょー せんせいも みんな
  みんな ひみつを みせてくる 」

「 さちこは とくべつ
  さちこは みらくる
  さちこは とくしゅ にんげーん 」

ん ?

「 さちこは みらくるしょうじょ
  とくしゅにんげーん 」

え ?

「 さちこは とくしゅな ほしのもとに うまれました
  にんげんは みな わたしに ひみつを みせたくなるんです 」

「 どこにでもいる おんなのこ ー
  さちこは ふしぎ みらくる おんなのこ ー 」

ごめん
それは 違うんだ ...

おとなに なれば
わかるけど それは 違うの

貧乏で
女で
ちぃさくて
薄幸顔 だから

てゆうか まず
大前提として 親がいないから
後ろ盾が ないから
価値が ないから

舐められてたから
したに見られてたから
あなたは 憂さ晴らしに 使われただけなの

「 めから びーーむ
  みらくるしょうじょの じったいは いーかーにー 」

声に 色が見えるのは
親に 捨てられたから

おとなに
なれば わかるけど
孤独って
そうゆうものなの
欠乏感 とか
そうゆうものなの

「 いつも うそついて にこにこしてさ
  おかあさん かわいそうだった 」

「 うそつくと ひとりぼっちになるじゃん 」

「 だから おかあさんには さちこが ひつよう
  うちだけには うそつかなくて すむから 」

「 にこにこ おかん
  ほんとうは おこってるー
  がぉ ー ぐぉ ー ぎょぇ ー 」

その こどもは
両手の人差し指を
鬼のツノに見立てて 下の歯を剥きだし
白目をむいて こちらに みせてきました

しばらく 止んでいた
病室の暖房が また
音をたてて 起動しました

その近くにある 洗面台の
端が 欠けた鏡には

" ほんとうは おこってる "
鬼に よく似た わたしが
映っていました

そっか
完全に 思い出したよ
この わたしが
特殊人間だった

この わたしが
ミラクル少女だった

わたしは 全身が映るように
鏡から少し 離れて
両腕と両足をクロスして
ゆっくりと うつむきました

「 どこにでもいる 女の子
  だのに ミラクル サイボーグ ? 」

グ ? のときに
首をかしげると 同時に
右手で ピースサインを作りさりげなく
右目尻に 添えました

このとき 両足は
肩はば 以上に開き
左手は 腰に当てています

「 目から ビーーム 」

「 うそをついて ニコニコして
  ひとりぼっちになった 人間たちよ 」

「 わたしに 真の姿を 見せるがよい
  なぜなら わたしは

  ば り や ば
  不 思 議 ミ ラ ク ル 少 女 」

髪をかきあげ
肩や腕の動きを利用して
三回転したあと 横向きに立つ

このとき
右手の甲は 背中に
左手の平を 胸に当てる

台詞と 振りつけは
完璧でした

ながらく
検体を すっかり
とりちがえていましたが

台詞と 振りつけは
完璧でした




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