第23話

文字数 2,766文字

裏面の 文字らしきものは
一匹 みつけると 次々に みつかってしまう
海辺のフナムシのようでありました

はじめは 気づきませんでしたが
どんど焼きのお知らせが 記された 表面にも
開催場所と思われる お寺の地図のところに
「 うち ここ 」との 記載がありました

そして 炎のイラストの近くにも
「 だるま だるま だるま 」と
絵の説明のような 文字もみつかりました

そして
その文字からは
ほんのりと あまい
青いアネモネの花の香りがしました

土埃が 滲んだ
植物の汁で これらの文字は
描かれているようでした

あぁ
こ これは

これは
あのカラスからの伝言では
あるまいか

柑橘のような
薬草のような
淡くも 奥ふかい
青い アネモネの香りは

ともかくとして

まず わたしは
この 手紙の文面が
実際に 会って話す カラスより
あどけない印象であることに 衝撃をうけました

あと


女とゆう文字が
カタカナであることも
昭和の大人の漫画本のタイトルのようで
気になるところでは ありました

わたしは
あのカラスのことを
美化していたのかもしれない ...

これは ... よくあることです

こうゆう過ちは すでに 何度か
経験したことが あるような気がしますから

そうでした

以前
あのカラスから
訊いた 話によると

あのカラスの繁殖期は
すでに 終了しているとのこと

繁殖期のときも
ほかのカラスより その衝動は
ひかえめであった とのこと

ところが !

そうゆった
ひかえめな ポーズを
オスが とることで
メスのほうが 積極的になるものである
とゆうようなことを

「 吾輩の潜在意識は
  熟知していたのやも しれませんのう ... 」

と 遊び人の極意のようなことを
遠い目をしながら 語っていたことを 思い出しました

しかし そのあと
合計 七つの子の長所を
長男から順に ほのぼのとした タッチで 解説していたので
その問題発言は 帳消しになっていたのです

" 吾輩の潜在意識 ... "

だとすると
この文面の あどけなさ
対面と文面の印象の ギャップも
無意識的には わざとで

メスのわたしから
なにかを 誘発させようと

無意識的に 潜在意識で
カラスは 目論んでいるのでしょうか

ああ
ややこしい

問いつめたところで
潜在意識のことですから カラス自身も
わからないと 思うのですが

わたしは 昔から
人間関係が 億劫ですし
今回の場合は 相手は カラスなので
人間関係では ないのですが

人間との関係さえ 築きづらいのに
カラスの無意識の領域まで 洞察するとは
わたしにはハードルが高すぎる と感じました

”相手の意図を
想像するなら 顕在意識まで "

そうゆえば 小五のとき
まちがえて N島に 恋をしたときも
同じような 煩わしさを 感じて
わたしは こう 決めたはずでした

" 相手の意図を
想像するなら 顕在意識まで "

なにせ
顕在意識こそが
相手の意図が及ぶ 領域ですから

ここで はっきり 線引きしないと
ぐるぐると 思考が止まらず 脳ばかりが
活性化して 脳のばけものに 変容しそうだったからです

ですが ひとつ
つい 気になってしまったのですが

あのカラスにとって
花びらの汁は 日常的な 表記ツール
なのでしょうか

じつは スマホで
調べてしまったのですが

アネモネの花言葉は
" はかない恋 " と ありました

ひょっとして これが
カラスからの 恋文だとしたら

そこは
わかっておかないと
後々トラブルになる 可能性もあるように
感じまして

ですが
もっとゆうと
アネモネ ですが

カラスが 顕在意識で
花言葉を 理解していて
意識的に アネモネを 選んでいるとしたら

なんとなく
あの カラスに対して 興ざめ
とゆうか

それは
まめな男が 苦手とか
気持ち悪い とかでは なく
傲慢でも なく

無意識で
アネモネを 選んでくれているほうが
男女とか 恋愛とか 人類とか 鳥類とか 関係なく
生きものとして 好感が持て
仲良くなれそうな 気がするのでありまして

ああ
そっか
そうだったのか

こども時代からの
わたしの気難しさとは

この 潜在意識を
尊んでしまう気質から
きているのだ

周囲の人々の
意図的な 働きかけ

意識的な親切が とても苦手で

上手に 喜べなくて
可愛げがないとか 冷たいとか
よく 周囲を がっかりさせていました

それは
わたしの生い立ちが
相手の潜在意識を感知せずにはいられない
環境下にあったからです

お母さんは
にこにこしながら 怒っていたし
あざけりながら 泣いていたし
ほんわかしながら いらついていました

校長先生も
施設関係のひとも
その周囲のNPO団体のひとも

わたしだけに いつもと違う
" 無意識 " を みせていたからです

わたしが受けた
幼少期の暴力は ひょっとすると
潜在意識を尊ぶための
英才教育

〇歳からの
英才教育だったのかもしれません

ひとは
こころ とゆう
コントロール不能の " 輝き " を
胸の奥に 隠し持っている

それを わたしは
幼少期に 学びました

そう
こどもの頃
お母さんの本心は
どんなものでも" 輝き " でした

闇とゆう
名前では なかった

笑顔のむこうで
社会性のむこうで

キラキラとした 光を放ち
それを みつけると うれしかったです

お母さんの本心は
どんなものでも" 輝き " でした

わたしは
特殊人間
ミラクル少女です

わたしと 共鳴できるのは
当人も 自覚できないほどの
自己愛と光

想像以上の
ほ ん も の の こ こ ろ オ ン リ ー

「 特殊人間
  ミラクル少女は
  本物とだけ 共鳴するのだ 」

わたしは 胸をはり
つまさき立ちに なると

なにか ごつんと
固いものが 足先に 触れました

それは
手紙の重しとなっていた
まるい小石

わたしは それを
床から拾いあげて お手玉のように ぽんと
宙にほおり 逆のてのひらで うけとめようとしました

すると
青い
アネモネの
花びらが

青い
花びらが
一枚

はらりと
宙を
舞うのでした

花びらは 光に透けて
紫色の花脈を 持っているのがわかりました

角度によって
色彩を変える 花びらが
ゆっくりと
小石から はなれ

宙を
舞い

床へと
着地する
三秒間

この
三秒間が

カラスから わたしへの
本当の手紙のように 感じました

木造アパートの隙間風が
手もとのコピー用紙をさらいました

その隙間風は
大家さんの長女さんが 焚べた
枯葉に そっと 火を灯しました

わたしは 頭のなかの
担任教師に

この作文を 繰り返し
繰り返し
発表しながら
晩ご飯のお米を 研ぎました

おとなの
げんこつ大に 破れた
台所の窓の裂け目からは
かつて 誰かから シリウスと名づけられた 一番星が
こちらを 眺めていました



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