第12話

文字数 2,431文字

ギーギーギー
グォォォン

ギュル ギュルルル
ヒョエー
むんずっ
ドッカーン
ガー ガー ガー

この街は
みんな ふつうだから

鹿も
もういないし
だから わたしが

ゴォー ゴォー ゴォー

だから わたしが
じぶんで やらんとです

ギィヤァァァ ー !

すると
なにか しめった視線を
上空から 感じるのでした

上空の知人とゆえば
あのカラス

おそらく あの
カラスではないでしょうか

あた ふた
あた ふた

ふぅ

わたしは さりげなく
目じりから 上空を見やると

ふいに
目と目が 合いまして

わたしより さきに はっとした
カラスは 動揺をかくすように みけんに しわをよせ
なにかを 深刻に 考えているかのような
表情となりました

それから
上空を 迂回し
駅の向こうへ飛んだかと 思うと

わたしの目のまえにある
郵便ポストわきの ガードレールに
ばさぁと 舞いおりてきたのです

「 おやおや、巨大な餌が居ると思ったら貴女様でした。
他の烏に狙われんよう、ご用心下さい。」

「 そうですね
  カラスは人間を食べるんですものね 」

「 いやはや ... 。吾輩は三年程前に中高年枠と相成りましたが、繁殖期の烏は己が嫌に成る程獰猛です。此処だけの話ですが日本人の年間行方不明者の〇・三パーセントは、繁殖期の烏に因るものです。
 先日もお伝えしたように、通常、我々は群れから外れた脆弱な生物を最適な餌と見做し捕獲します。そして、その残骸の処理法は時風と共に進化適合し二〇一六年夏至以降は、概算三〇キロ以上の人肉処理は解体雑務から発酵義務に類別され地底に生息する土竜属、壁に生息する虫属、そよ風に生息する酵母属のみで内密に遂行するように成りました。曾て専任していた岩の狼属、我々空の烏属は別の大役を請負いましてのう。話が複雑に成るので此については割愛致すが、稀に手を降す一匹狼や訳有烏も居るには居るのですが、公的には我々は新たな契約を厳守致して居る所存です。

 さらに、二〇二〇年春分、自然界密告者の記憶を撹乱せしむ闇の妖精属団体から空の烏属にも加入申請が御座いました。従って現在、我々は松陰の天狗属のご指導下、専らそちらの管轄で尽力致して居る次第です。

 妖精属団体の巫術は二〇二三年冬至に大宇宙認証も得て益々奔放と成りましたし、平淡な印象の酵母属の分解における豪傑さは人工界でも周知の事実で御座らぬか。故に、自然界の真誠はヒト社会には露呈する事は有り得ぬが、貴女様には一応口外御法度と忠告しておきます。
 貴女様が人間界で気狂いと警戒され、益々群れから外れても困ります...と申しますか。そもそも吾輩は只貴女様に用心を促すために小声で真実を暴露った所以でして ... 失敬。自分の嘴が滑った所以心よりお詫び申し上げまする。」

「 ふうん 」

きょうは
曇り空なせいか
前回は 山吹色に透けていた
カラスの翼からは 淡い青と緑 紫色の光が
黒に混じって 透けていました

「 ところで あなたは
  これまで ヒトを 何人食べたの ? 」

「 嗚呼 ゝ其の件ですか ... 。吾輩は何と申すか、ざっと、むにゃ むにゃ むにゃ .... 。」

カラスは
眠ってしまいました

空の烏属は
陸のヒト属とちがって
なにかを ごまかすとき わざわざ
コンビニまで たばこを買いにゆかないようでした

くちばしのうえの
鼻の穴から 寝息のようなものが
羽毛をゆらしています

しっかりと 閉じられた
カラスのまぶたは 純白に染まっていて
目をつむると 白目をむいた 般若のような
おそろしい表情に なっていました

これは 眠りながらも
天敵を威嚇する 烏属の
巫術かもしれません

わたしは これまで
勝手に このカラスを 歳上のおじさん
のように感じていました

じっさい
歳上のおじさん
なのかもしれないけれど

このカラスのからだは
おおきいとはゆえ
ほんの柴犬ほどのサイズです

わたしより
ちいさな生き物が こうやって
めのまえで 無防備にふるまっていると
わたしは無性に どきどきするのです

だって
わたしが いま
思いきり ぐぅで 殴ったら
このカラスは 死んでしまいます

そのポストの角に
ぐりぐりと 強く押しつけたり
ガードレールのむこうを ゆきかう ダンプカーの前輪に
このカラスを 投げつけることだって
わたしには できてしまうのです

だのに
このカラスの
自信満々な ねがおは
いったい なんなのでしょうか

世の中には
獰猛などうぶつだけでなく
くさった人間も たくさんいるのです

わたしが
ゆうのも なんなのですが ...

わたしは
あまりに 無防備に
眠たふりをしているカラスの
短かく 生えそろった まつげに さわりたい
衝動を じっと 抑えていました

すると
ごまかしたいものが 完璧に
ごまかせたことを 感知したかのように
カラスは 片目をちらりと 開くのでした

「 会話のとちゅうです
  眠ったふりで ごまかさないでください 」

わたしは あえて
強めの口調で 伝えてみました

「 愕々... ! 貴女様は何と云うことを。吾輩は何も誤魔化して居りません。貴方様は、ご存知ないのか。眠ることで世界が素晴らしく、美しく、有り難く変化することを、貴女様はご存知無いのか! 」

カラスが
驚いたように
わたしの顔をのぞきこむと
ガードレールに かぎ爪が
細かくこすれる音がしました

この
世界が ?

眠ると
素晴らしく

美しく
ありがたく
変化する ... ?

カラスは
ガードレールから ぴょんと降りて
このことは
カラス界では 常識
とゆうより

おばあちゃんの知恵袋的
でもなく
生理現象に近い
習性であること

古代から
ことわざにも選ばれないくらい
当たり前田の宇宙の原理 原則
クラッカーなのだそうです

「 その証拠に貴女様のお顔が就寝前より優しく成って居ります。吾輩にとっては素晴らしく、非常に有難い変化で助かりました。雲も流れて橙の木漏れ日が非常に活発で綺麗です。」

そうゆって
カラスは 得意気に
くちばしをカチンと鳴らしました





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