第10話

文字数 1,557文字

からだにもどって
ふだんの生活をはじめようとしても
にくたいの角膜で見る世界が
からだにいないときに見るそれと 似たままでした

このことが
なにを意味するのかわかりませんが
窓のそとの深い闇に ゆっくりと
朝の水色が まじりはじめました

この深夜から 明けがたにかけて
東京二三区内 武蔵野市 三鷹市 国分寺市 国立市
立川市 あたりまでで わたしと同じ覚悟をしたひとは
何人いたのでしょうか

こどものときから
わたしは ひとりになれたとき
いちばんに こんな想像をめぐらせて
遊んでいたことを 思い出しました

そうすると
ふだんなんでもない畳が
台所のつめたい床が ほこりっぽい玄関が

おとぎばなしにでてくる 森とか
はらっぱ みたくなって そこに

ねころんで 一〇〇〇年に一度とかの
流れ星とかを おなかとかに のっかった
小動物とかと一緒に まちわびているような

そんな うれしい たのしい
きもちとかに なるものですから つい ...

しかし
そうなりながらも
わたしは 思うのです

暗いばしょで
成人が描くファンタジーには
限界があるものですと

じっさい
いたい傷を おって
暗闇で息をひそめている
おとなのわたしです

そんな わたし
もう 傷の治りが おそい わたし
ほんとうは わたし
なにがしたい ?

なにがしたい ?

と きかれれば
げんじつてきには なんとゆうか
わたしは
同胞をもとめているような
気がしますのん

同じきもちを
わかって
いる

ひととは ...

TSUTAYAの棚ですれちがっても
満員電車でつぶされそうになっていても
目と目が合うだけで なにか
通じあえるのかも

なんつて

こどもっぽいのは
わかっておりますぞい

てゆうか その前に
暴力 反対運動じゃないのかぃ
ですが

ですが
そんな 誰かが

わたしと同じ覚悟をした
誰かが この街に
生きていると思うと

かなり マニアックな
研究はっぴょうが できるような
気がしますのん

たとえば

S淵さんのたかいビルの
洗面所のななめに開く小窓から
きのう 逃した こころが いままさに

わたしの にくたいに
もどろうとしているのですが

にくたいに
もどろうとしてる
こころ 本体って

人間に 例えるなら

バイトさきや
はじめてゆく銭湯で 出会ってしまう
おばちゃん みたいだと 思いますのん

あなたが
その胸でちいさく
覚悟をしたことは かなしいこと

それは とても
悪いことで
しちゃいけない
感謝がないよ ばかだねぇと

キズアトがある わたしの うでや
せなかを カサカサした ぶあつい手で
さすりながら

まっかな 顔をして
じぶんが 泣いちゃっている おばちゃん

あの おばちゃんに
我々のこころ
似てません ?

銭湯から
わたしを 追いかけてきて
飴ちゃんを 三つ くれたひとに

こころって
似ているから ...

じぶんのこころなのに
おばちゃんに 似ているから

非常に
うざいものが ございまして

しかも
あたたかいひとって
なんか 十分くらい 話してると 逆に
淋しくなってくる 感覚器が
我々には ございまして

ほら
こんな話

公共の場ですると
頭おかしい いたい ひとたち
みたいに なってまいます はっぴょう

だけど
もしかしたら 今夜

わたしと同じ覚悟をした
誰かなら

おなかを かかえて
わらってくれるやもしれません

てゆうか いま
このおばちゃんに その誰かも
叱られていないかしら ?

そうだったら
感想をきいてみたい

この深夜から
明けがたに かけて
そして これまでの たくさんの夜

わたしと同じ覚悟をしたひとに会いたい

マニアックな
研究はっぴょうをしあいたい

すると 扉が

もう
ふるくなった
ファンタジーの扉が

ぱたんと 閉じて
九九% にくたいと同化した
わたしの こころは

ジュッと
しめった音をたてて
わたし ひとりと なりました




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