第28話

文字数 1,614文字

S D の
ボディスーツは
やわらかく

あまりに
簡単に 破れるので
苦しかった

しかし
その 裂け目から
みえる 体内は まるで
宇宙のようで

限りなく
美しく

いつかの 病室で
あの こどもの 髪の匂いを
感じたときと
おなじ気持ちになりました

勝手に
せつなくなって
ごめん

あなたは
わたしの想像以上で

あなたを
みじめに 感じたのは
こちらの 小ささとか
たんなる 都合で

わたしって
なんて
あ さ は か な ん だ ー

そんな 気持ち

そして
目の前に ひろがる
S D の "宇宙" には
たくさんの種類の
石のようなもの

恒星のようなものが
浮かび 瞬いたり
ところどころで 密集して
不規則に ひしめきあっていました

黒い溶岩のようなもの
翡翠や 猫目石 クリスタル ほか
輝かしい宝石の 原石のようなもの

球体の 軽いもの
大理石のように 重厚感があるもの

無縁仏の墓石や
崩れた お地蔵さまの 耳のような
家に持ち帰ったら 祟られそうな
不穏な物体も ひしめいていました

そのなかに ぽつんと
さきほどの ベランダに もどりたがっている

N谷さんの角刈りを
さわりたがっている 物体が 微細に
振動していました

その形状は
おとぎばなしなどで よく
鬼が持つ コン棒を 小さくしたようなもので
色は まさに N谷さんの ひとりごと

あの 水色でした

あの 水色を
S D 自身が 体内に持っていた
とゆうこと ?

そっと
その物体に ふれてみると
やはり

夕立ちの
さいしょの 一雫のような 波紋が
この胸に 発動するのでした

そして ふと
その奥を 見やると

いまでも
S淵さんとの関係を 続けたがっている
緑灰黒っぽい ガリガリした物体が 地味に
荒ぶっていました

その むこうには
S淵さんが 豹変したあとの色

こっちの物体は
豹変 五秒前

あれ ?
これ S淵さんじゃん ?
と 間違えてしまうくらい

いずれの色彩も
S D が 体内に 持ち合わせている
物体でした

こうして
S D の恒星を ひとつづつ
手にとり 感じる 作業は まるで 臨終時の
走馬燈のようでした

これまで
出会ったひとたちや
出来事によって 見えたこと
感じたものが そのまま
リプレイ するのですから

なかには
心当たりのない
色彩も みつかり

これは
未来かもしれないと
手にとり 感じ 知ることに
没頭しそうになりましたが

なにかを 侵し
冒涜しているような

S D に申し訳ないような
気持ちとなり
これ以上 のぞき 感じる行為を 自分に
禁ずることにしました

いま
眼下に臨む
脈打つ 星座表は

傍観者の邪気を寄せつけない
神聖さ そのものでありましたが

神聖さとは
大邪気を内包
凌駕したものであるかのように

N谷
S淵色の濃い エリアは

かつての わたしの 演技じみた
事情聴取を 彷彿させる 色彩が 波打っていて
我ながら 恥ずかしくなりました

しかし 当の星座表は
その 輝かしい 魅力を

被害者であることの悦びを
魅力を 晴れやかに すずやかに
優雅に 堪能しているようでした

わたしは
わたし的には 恥ずかしい
その周辺を 取り除こうと
石ころや 恒星 惑星たちを かきあつめ
部分的に 取りはずそうとしましたが

すべての物体は
物体どうし さらには 骨や臓器 血管
神経とともに 密接に からみあい
結石の摘出手術のようには ゆきませんでした

それどころか
S D の体内は
なにも 悪びれる様子もなく

天真爛漫に
彼女の宇宙を提示してきます

いま この胸を潰す
自己嫌悪や 自己評価の低さ(を表す惑星) さえ
誇り高く 披露してくるのです

なかでも
衝撃的だったのは

わたしが
幼少期に 母から
ふられることでさえ

この宇宙では
期待に満ちた 栄光のように 眩しく
優雅に 煌めいていたことでした

その期待とは
誰かを 試すようなものではなく
二人称など 存在しない
はなっから 潔く 純粋で 無邪気

悪趣味な ほどの
勇敢さを 感じました


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