第22話

文字数 1,776文字

逃げ場のない 大通り
まだ ゆっくりしか 歩けない
自分を励ましながら アパートに 近づくと

垣根のむこうに
落ち葉を竹ぼうきで 集めている
大家さんの 長女さんが 見えました

新調したと 思われる 赤い プラスチックのメガネ
チェックの膝下スカートからのぞく 毛糸のタイツと その毛玉

彼女が集めた 落ち葉のそばには みかん三つ
マッチ箱 まるめた新聞紙 栞がはさまった 漫画本が 置かれていました

大家さんの長女さんは わたしに 気づくと
眉間にしわをよせて こちらに 近づいてきました

「 交通事故ってきいて 心配してましたあ
  大丈夫でしたか ? 」

「 赤いめがね かわいいです
  焚き火で みかんを 焼くのね 」

信号待ちの交差点で
左折する バイクに 鞄のひもが 引っかかって
ひきづられて 救急車で 搬送された ...

そんな作り話を 思い出して
すこし 恥ずかしい 気持ちになりました

「 こんなとき ごめんなさい
  ちょっと 今朝 心配なことがあって ... 」

大家さんの 長女さんは
二階 角部屋の わたしの台所の窓が
何者かによって 破られていたと 教えてくれました

どうするべきか
焚き火をしながら 考えようとしていたところ
ちょうど わたしが 帰ってきた とのことでした

わたしは 首を 傾げながらも
このところの一連のできごとに 関わっている
どなたかの 強い感情による 出来事だろうか

現金書留の シノさんの字体を思い出すと ともに
米国製の柔軟剤と皮脂が 混じったような
S淵さんのにおいが おでこのうらを かすめるのを感じていました

いちど S淵さんに
ここまで 車で つけられたことがあった
彼が 現在 逃亡中だとしたら ...

わたしは 物音をたてないように 庭の東側へまわる
大家さんの 長女さんのあとをついて 忍び足で 階段をのぼり

わたしの部屋の台所窓に近づくと
たしかに 磨り硝子には おとなのげんこつほどの
亀裂が 入っていました

亀裂からは
おくの部屋が 見えて
まくらに巻かれたタオルの絵がらが
前世の記憶のように 感じました

大家さんの 長女さん 曰く
小窓の鍵は閉まったままだし 朝から 部屋のなかには
誰の気配もなかった とのこと

だけど
犯人に なにかしらの 魂胆が あるとするならば むしろ
気配を かくすでしょう とのことで

ここは 用心をして
わたしは 彼女が にぎっていた 竹ぼうきを 借りて
左手につかみ 右手で 静かに 玄関の鍵穴に 鍵を挿しこみました

そして 静かに ドアをひらき
息をころして 玄関に一歩 足をふみいれると
バイトから 部屋に 帰ってきたときの においがしました

玄関から
死角になっている お風呂場やトイレ
物置のなかを そっと 確認すると

窓硝子の破片 いくつかが
台所のシンクに 散らばっている 以外は
どこも 荒らされた 形跡はありませんでした

あとから 部屋に入ってきた
大家さんの長女さんも ほっとした様子で
おそらく 近所のこどもらの 悪戯だろう と
それじゃぁ 気にしない 方向で と
窓の修理の話は せずに 庭にもどってゆきました

窓の修繕は 自費でしょうか

わたしは 働かないで 得た お金を
あぶく銭と 名づけた 誰かに 想いを馳せながら
窓硝子の破片を ひとつづつ 拾ったあと
数ヶ月ぶりに 部屋に 掃除機を かけはじめました

すると
不思議な物体がひとつ
床に 転がっていることに 気がつきました

それは
雑にまるめた
紙くずのようなもの ?

冷蔵庫と
食器棚の間に はさまった それを 掃除機の先で突くと
まるまった 紙のなかから こどものげんこつほどの
石ころが 出てきました

そうか
これが 小窓を 破って
部屋に 投げこまれたのだ

なにか 犯人に繋がる
情報が 得られるかもしれません

わたしは 石ころを 包んでいた
紙をひろげると それは この お正月に 隣町のお寺で開催された
どんど焼きの案内コピーでした

燃え盛る炎に包まれた だるま

怒っているのか
泣いているのか 笑っているのか つかめない
表情のだるまたち

そのイラストを ぼんやり 眺めていると
その裏面に なにか
文字のようなものが 描かれているのを みつけました

〝 おカァさんが
  じょうきょうします
  オンナが よろこぶもの えらんでほしい 〟

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