パトカーはオレらに追いつけない

文字数 696文字

横断歩道を歩きはじめた女が、ミニスカのマブい網タイツだったので、オレは信号を無視し、走行したままドアを開け、ステアリングから腕をはなして彼女の手首をつかみ、車内に引きずりこんだ。つもりが、彼女は車内に入りきらなかったばかりか、対向車・後続車・信号の柱、カフェのテラス席のテーブルやウェイトレス、その他ありとあらゆるものに激突してしまい、どこまでも彼女に固執して放さないオレの手につかまれたまま、胃を飛び出させてしまった。
しつこいパトが何十台とチェイスしてきて追いすがり、停車サルベージどころじゃないんだ。
彼女の胃は、どうしたものか無限に長くて、片手ステアリングにもどして汗かきかき何キロメートル走行したところで、街路へと、田舎道へと、どこまでも伸びつづけて、バックミラーのかなたに果てしなかった。(Remind:腹から出たのは蝶々でも腸でもないんだぜ)
そこにいたって、いくら遅鈍を自認するオレも、彼女が人間ではないことに気づいた。ヒョーッ、宇宙人ているんだぜ。
「このとおりだ、謝るぜ」と、オレは腹の裂けてしまった彼女を見い見いして声をかけたが、
「気にしないで!」と笑顔かがやかせた彼女は、カメレオンが舌を巻き戻すみたいにヒュッと胃を腹腔にしまうと、腹部はまるで見えない手でジッパーが閉まるみたいに天才医師が先端テクノロジーを駆使して縫合したみたいに、ツルッとキレイになった。
オレがグイと腕を引くまでもなく、彼女はバッタのごときバネ跳躍によって助手席にバッと座るとバタンとドアを閉め、
「最高ね、このドライブ」オレの首に腕をまきつけ、柑橘系のパヒューム香らせた。「あなた超人ね。タダものじゃない」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み