花の雨(リンちゃん、番外編)

文字数 923文字

好きな人のことをおもいつづけていた。
中1の頃の、ある夜。ぼくはベッドに横たわっていた。
暗闇を背景に光り輝く彼女は、何時間おもい浮かべても、まだずっと見ていたい存在だった。彼女のほうは、といえば、ぼくがこんなふうに勝手に彼女を見ているなんて、知るはずもない。
そして瞬間、ぼくは猛烈な衝撃を口に感じた。もう唇が血だらけだし、それどころか、ぼくの顎ははずれて口が裂け、口に入りきらない何かで口がふさがれていた。くるしい。
髪のようなものをつかんで、その重いものを引き上げると、それは彼女の頭部だった。

切断された首は、切断面もやわらかな皮膚でおおわれ、ぼくの歯で傷ついた部分をべつにすれば、ケガはない。
「だいじょうぶ?」と、彼女を心配して、きこうとするが、ぼくは顎がはずれているので、喉から空気がもれるだけだ。自分の折れた歯を呑み込みそうになったので、とっさに顔を下むけて、枕の上に歯をポロポロと落とした。奥歯以外、ぜんぶのようだった。
ふしぎに痛みはない。
信じられないことが起きたことに、あっとうされている。
両手に抱えた彼女の頭部に顔を向けなおすと、天井にむかってぼくに掲げられた彼女は、目をパチクリさせていた。
「ドロロー、ドロロー」と彼女は喉の奥深くから声を出した。
「ドロロー、ドロローじゃないよ。似合わない。よしなよ、アヤちゃん」
「アラ、似合うとおもうわ、わたしに。ずっと、こんな声が出してみたかったの。ピッタリの機会がおとずれたんだわ」
「アヤちゃんはもっとミステリアスな娘だとばかりおもってた」
「アラ、がっかりさせちゃった? コドモっぽい?」
「話したの、はじめてだもんね」と、ぼくはいったが、ぼくは顎が完全にはずれているので、これらの会話は、声でおこなわれたわけではない。
もちろん彼女はしゃべったが、ぼくは声のかわりにテレパシーがつかえるようになっていた。
「ルイくん、すごいよね。サイコキネシスで、わたしの首をこんなに遠くまで」
「イヤ、こんなことしようなんて、おもってなかったよ」
彼女は、ぼくの手の間から、真剣な目でぼくを見上げ、一瞬だまった。そして、
「ね、ルイくん。わたしたちもう、学校いかなくていいんじゃない?」といってキャハハハハハとわらった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み