腸〃

文字数 520文字

何本も何本も空からブラさがった腸は、まるで柱のように太く、荘厳な影をつくりだしていた。
茶褐色に濁った空気は黄昏をつくりだしていた。
それは巨人たちの腸だった。誰か巨人たちよりもさらに巨大な存在が、巨人たちの腹を割いたのだ。ブランブランした重々しい腸にあたった車や列車ははじかれて、とおく飛ばされクラッシュした。ビルは倒壊して多くの者が死んだ。
巨人たちは腸を垂らしてなお、空飛ぶスーパーマンのような姿勢で上空にとどまっていた。
何人かの勇敢な若者が腸に飛びつき、上りはじめた。
何人かの若者は腸に火をつけた。腸の脂は激甚な炎をつくり、迅速に燃え上って、腸の途上にあった若者たちを焼いて炭にしてしまった。
なんのために巨人たちは現れたのか。巨人たちよりさらに巨大な存在は、なぜ巨人の腹を割いたのか。
わかるはずがなかった。
考えれば考えるほど、人々の脳は熱くなり、とうとうあちこちで頭蓋がポンポンとはじけた。
「今よ! 走って!」ピンクのウィッグをつけた女の子が叫んだ。「汗をかいて熱をにがすの! 走ってなにもかもわすれるのよ! 今じゃなくていつ走るの!?」
「今でしょ」
「今でしょ」
「今でしょ」
「今でしょ」
「今でしょ」
「今でしょ」
「今でしょ」
「今でしょ」……
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