Oh, Pretty Woman

文字数 525文字

「やべ。ヘルメットに痔できちゃってんじゃん」ぼくがヘルメットをみながらいう。目が点から眉間にしわ。「これじゃツーリングいけねえじゃん」
「えなに。どした」と、妻がちゃんと拭いたのかどうだか慌て気味にトイレから出てきて、「目がマンガみたいになっちゃってんじゃん、てやつ?」と、洗わないままの手を自分の膝にかけて身をかがめ、あげくぼくの肩に手をかけてのぞきこんできた。「あ、ヘルメットに痔できちゃってんじゃん」
「だよ。その洗ってない手どけてくれや」
「ごめんごめん。わたしの痔がヘルメット移っちゃったかな? ならバイク乗れるんだけど」
「おまえはいいよ。おまえのヘルメットに痔できてねえからな」ぼくはムッとなって応答した。
「ヘルメットが座るわけじゃないじゃない? 気にすることないよ」、と妻に至極まともなこといわれちゃって。即座に反撃しなくちゃ立つ瀬がなくなる危うい状況。
「どけろや、手」って返した。ぼくの勝ち。
「アハハハハ」って、その手で口おおってバカ笑いする妻。
 わが世の春がくるのはいつになることやら。
 こんなんでも小さな春ってことにはなるんだろうか。さて、一句よもうか。と、痔持ちになったヘルメットはひとまずわきに、ちゃぶ台のさめた昆布茶を一口すする。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み